「ワクチン後」に待ち受ける日本医療制度の課題 2022年度予算編成の焦点は診療報酬改定に

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2022年度の診療報酬が2021年度と同じであれば、高齢化の影響分しか医療費は増えず、財務省からすれば大幅なプラス改定をのむよりもましである。しかし、医療機関側からすれば、医療機器の価格や人件費の上昇があれば、診療報酬が据え置かれると経営が圧迫されかねない。

受益と負担は対立するものではなく、バランスをとるものである。では、医療機関と国民双方にメリットがある診療報酬改定はどうすればよいか。それは、医業収入安定化のための診療報酬改定である。

「出来高払い」から「包括払い」へ

医療機関は2020年度に、受診控えによる医業収入の大幅減という未曾有の事態に直面した。それは、わが国の診療報酬が出来高払いに依存しすぎているからだ。つまり、患者の受診回数が増えれば増えるほど、また患者に施す診療行為が多ければ多いほど、医療機関の収入が増えるという出来高払いを多用しすぎているのだ。

その結果、緊急事態宣言や外出自粛等で受診控えが起こると、医療機関の収入が減ってしまった。そうならないようにするにはどうしたらいいか。それは出来高払いから包括払いや定額払いにシフトさせていくことだ。

包括払いにすれば、患者の受診回数等にかかわらず、定まった額の診療報酬が受け取れる。入院医療でもわが国に包括払いはあるが、それは入院1日当たりの包括払いとなっており、入院日数を増やすほど診療報酬が多くなる性質があって、その意味では出来高払いに近い。

これを、諸外国でも導入されている1回の入院当たりの包括払いにすることで、患者の入院日数に関係なく医療機関の収入は安定する。

さらに、外来医療費は2020年代後半には総じて減少するとの試算もある。人口減少の影響に加え、人口当たりの外来受療回数が80歳代になると低下することに伴うもので、出来高払いに依存した医業収入は先細りだ。外来医療で「かかりつけ医」の選択的登録制を設け、かかりつけ医に登録した患者1人当たりの定額払いの診療報酬にすれば、患者の受診回数とは無関係に医業収入が外来医療でも安定する。

このように、次の診療報酬改定では、プラス改定に固執するよりも、医業収入の安定化に注力した改定を目指すほうが医療機関のためでもあり、国民のためでもある。

菅内閣にとって初めてとなる骨太方針は、どのように閣議決定されるだろうか。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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