目下、新型コロナの影響で収入が減っている家計や経営が悪化している企業からすれば、この社会保険料負担の増加は耐えがたい。したがって、社会保障費を今まで以上に伸ばすことは、家計や企業にも悪影響を及ぼすこととなり、現下の経済情勢ではおいそれと容認できない。
他方、高齢化が進み、社会保障給付がさらに必要となる今後、社会保障費の実質的な伸びを過去6年間よりも低く抑えるように、歳出改革の目安を決めるのも政治的には容易でない。
そうした膠着状態の下で、骨太方針2021を取りまとめることになる。そうすると、歳出改革の目安の落としどころは、骨太方針2018を踏襲することになるかもしれない。
2022年度予算の焦点は診療報酬改定
骨太方針2021に基づく最初の予算は2022年度予算となる。2022年度における社会保障費の注目度ナンバーワンは、診療報酬改定である。
診療報酬改定は2年に1度行われることが慣例となっている。新型コロナ対応の医療現場で、献身的な努力を重ねている医療従事者には心から感謝したい。その貢献に報いるなら診療報酬の大幅なプラス改定を、といきたいところだが、前述のように、保険料負担の大幅な増加をもたらすことになる。さらには、診療報酬の増加と連動して患者の自己負担も増えることとなり、家計をさらに圧迫する。
公的医療保険制度のもとでは各保険者が独立採算で運営されており、診療報酬が増えれば、医療保険料を引き上げなければならない。新型コロナの影響で賃上げができない企業が数多くある中、2022年度に医療保険料が大きく引き上げられれば、多くの就業者は手取りの所得がさらに減ることにもなりかねない。
給付と負担のバランスを考えれば、診療報酬の大幅なプラス改定が、国民全体にとっての最善解ではない。
さらに、財務省は「医療制度改革なくして診療報酬改定なし」を打ち出している。骨太方針をめぐり社会保障費の伸びについての扱いが膠着状態となっていることを受けて、今後行うべき医療制度改革にコミットすることを求めている。
医療制度改革にコミットせずに大幅なプラス改定ばかりに固執すると、改定自体を財務省がボイコットするかもしれない。改定をボイコットすることは前例がない。ただ、診療報酬を2年に1度改定しなければならないと法律で定められているわけでもない。改定しないと政府が決定することも可能なのである。
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