「余暇」の重要性を説いたアリストテレスの慧眼 古代ギリシャの「治乱興亡の歴史」に学ぶ教訓

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こうした中間層の重要性を指摘したアリストテレスは、さすがに慧眼と言わざるをえません。はるか後世の18世紀の産業革命時、とくにイギリスは中間層が急拡大したことにより国家として安定し、大英帝国の繁栄を迎えることができました。イギリスに続いて繁栄した欧州諸国、アメリカ、日本などを見ても中間層の重要性は理解できるでしょう。

もう1つは、国民の主な生活基盤、つまり職種です。これが農耕中心であれば、国政は比較的安定すると説いています。農民は農地に生活があり、不必要に国政に関わるより農作に励むほうが安心できるから、というわけです。それだけ法律に基づいた安定した国政を望むということでもあります。

対照的なのが、都市型の労働者である職人や商人などです。彼らは生活基盤が不安定な一方、日常に飛び交う情報量が多い。したがって政治動向に敏感になり、短期的な損得や民衆指導者の扇動に影響されやすいとしています。

いずれにせよ、このあたりは今日に示唆的な論考と言えるでしょう。経済基盤が安定し中間層の割合が高い国ほど、政治的にも安定しやすいのです。

「徳」に満ちた国家にする

さらに、アリストテレスがくり返し強調しているのが「徳」を養う必要性です。権力を持った人々は、それが民主制ならより民主制的に、寡頭制ならより寡頭制的な方向へと極端に走る傾向があります。権力者はそれぞれ支持基盤を持っています。そこに利益をもたらすことで、自身の地位を安泰にできるからです。

そこに歯止めをかけるためには「徳」が必要となります。そして、「徳」を養うためには、国民への教育が何より大切となります。自身の利益と正しさを天秤にかけたとき、正しさを選択するのが「徳」です。大多数の国民が正しさを選ぶなら、その国全体の「徳」も高く、よき政治を実現しやすくなるというわけです。

ところが現実の国家を観察して判明したのは、どのような国政でも極端に走りやすく、それが内乱の根本的な原因になるという事実でした。またその内乱の勝者が同じく極端に走れば、やはり内乱が繰り返されます。

逆に言えば、一部の勢力の暴走を防ぐことで、政情は安定しやすくなるということです。それには、国民各層の主張や不満を平等にくみ取り、政治に反映されるような国家にする必要がある。それが「よき政治」というものでしょう。

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