神なのに人間臭い「ギリシャ神話」凄い権力闘争 主神ゼウスが世界制覇するまでの紆余曲折

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天地創造からゼウスが権力を掌握するまでの経緯をお届けします(写真: Iakov Kalinin/PIXTA)
西洋文明の起源の一つである「ギリシャ神話」は、今日の欧米文化のさまざまな文物に影響力を保ち続けている。例えば、オリンピックは、本を正せば古代ギリシャのオリュンピア祭を近代に再現したものだ。ギリシャ神話を知っておくと、欧米の文化的背景をより深く理解できるようになる。ギリシャ神話は取っつきにくいと思われるかもしれないが、その内容は人間くさい愛憎劇が繰り広げられていて、面白い話が多い。ここでは天地創造から、ギリシャ神話の主神であるゼウスが権力を掌握するまでにどんないきさつがあったのかを、宗教学者の中村圭志氏の新著『教養として学んでおきたいギリシャ神話』から一部抜粋・再構成し、お届けする。

カオスから最初にあらわれたのは大地

始めにカオスありき。

ヘロドトスの『神統記』の記すところでは、最初の存在はカオスであり、そのあと色々なものが生じている。だが、ここで、「なるほど、混沌(カオス)の中から秩序(コスモス)が生まれたのか」と思うのは、どうやら早とちりであるようだ。ここでのカオスは混沌の意味ではない。ギリシャ創世神話のカオスはカラッポを意味する。英語chasmはクレバスのような割れ目を指すが、chaosはそのようなぱっくりと空いた空虚を指す。

というわけで、宇宙史の出発点にあったのはカラッポであった。まあ、一種の無からの創造だ。ただし、世界の外にいる絶対神のようなものが無から有への創造を行なったのではない。おのずから自然物が誕生し始めたのである。

最初に現れたのは大地である。ギリシャ語でガイア。そしてこのガイアは女性名詞なので女神ということになった。ガイアはゲーとも言うが、geology(地質学)やgeography(地理学)に含まれているge-はこれに由来する。

大地の底にあるタルタロス(どん底)もまた生まれた。このどん底はキリスト教などの地獄とは異なり、懲罰の監獄ではない。また、ハデスのいわゆる冥界とも違う。ただ、地下のとんでもない深くにある暗闇というだけだ。男性名詞であるから、男の神様ということになる。

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