神なのに人間臭い「ギリシャ神話」凄い権力闘争 主神ゼウスが世界制覇するまでの紆余曲折

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ゼウスはクレタ島ですくすくと育ち、一人前の男になった。知恵の女神メティスがゼウスに協力し、クロノスに薬を飲ませて腹の中の者たちを吐かせる。飛び出してきた兄たち姉たちは、ゼウスを統領としオリュンポスを拠点として、父クロノスに反旗を翻した。

戦いは長く続くが、なかなか決着がつかない。すると今度はお婆さんのガイアがゼウスの味方をし、「奈落に落とされた怪物たちを救い出して、協力を求めるがよい」と知恵を授けた。ゼウスはキュクロプスとヘカトンケイルを救出した。

するとキュクロプスがお礼に、雷電の力をゼウスに与えた。パワー満載となったゼウスが雷電でクロノスたちに全集中で一発お見舞いすると、敵どもはふらふらとなる。そこにヘカトンケイルたちが岩を投げつけた。

かくしてゼウス世代とクロノス世代との大戦争―ティタン戦争(ティタノマキア)―は、ゼウス大勝利のうちに終結したのであった。

これでゼウスの時代が訪れるわけだが、実はこのあともう少しすったもんだが続いた。というのは、ゼウスがティタンたちをタルタロスに閉じ込めると、ガイアがまたしても怒り出し、巨神ども(ギガンテス)をぼこぼこ生み出したのだ。巨神戦争(ギガントマキア)もまた紆余曲折に満ちているのだが、面倒なのですべて省いてしまおう。

ともあれ、ゼウスは最終的に勝利を収めた。かくしてオリュンポスの秩序が出来上がった。

ゼウスの子供たちは草食系?

なお、やがてゼウスは子供たちに権力を奪われるのではないかとご心配の向きがあるかもしれない。だが、実際のところ、軍神アレスも、どんな兵器でも生み出せそうなヘパイストスも、人気1番のアポロンも、父親にはいたって従順である。新世代はみんな草食系男子になってしまったのか。

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ギリシャ人は現在の地に定住する以前から天空の父なる神をゼウスと呼んできた。権力交替ドラマはあとからの思いつきで、ヒッタイト神話などを参考につくったものだ。他方、あれこれ増殖した神々をゼウスの子供たちとして整理した。

というわけで、波乱万丈の政権交代ドラマとゼウス一家の家族ドラマは、それぞれ別の番組として成立した。同じNHKでも朝ドラのキャラたちは大河ドラマの真似をする必要はないのだ。

また、こういうこともあるかもしれない。「天空」を意味するウラノスは名目上の最高権威を表す。クロノスは力でのし上がることで、権力者としての実力を象徴する。

3番目に来るゼウスは、名目上の権威と実際的な権力を併せもつことができる。ドラマとして三段階構成が据わりはいい。一種の弁証法だ。4番目は余計なのである。

中村 圭志 宗教学者

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なかむら・けいし / Keishi Nakamura

1958年北海道小樽市生まれ。北海道大学文学部卒業、東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学(宗教学・宗教史学)。著書に『教養としての宗教入門』『聖書、コーラン、仏典』『宗教図像学入門』(ともに中公新書)、『教養として学んでおきたい5大宗教』、『教養として学んでおきたいギリシャ神話』(ともにマイナビ新書)、『24 の「神話」からよむ宗教』(日経ビジネス人文庫)、『人は「死後の世界」をどう考えてきたか』(角川書店)、『聖書、コーラン、仏典』『西洋人の「無神論」 日本人の「無宗教」』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)など多数。

 

 

 

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