東芝のゴタゴタが映す「社長の器」の普遍的価値 サラリーマン社長の思考と行動の本質とは何か

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大相撲の力士が、敗者インタビューで「負けた原因は?」「これからの取り組みは?」と問われても、「集中するだけです」とポツリと一言だけ。戦法を問われているのに、答になっていない。明日からの戦法を明かしたくなという心理もあろうが、要するに考えがまとまるまでに時間がかかり瞬時に答えられないのだ。このような人は、感情を司る右脳と論理的な思考を行う左脳を同時活用していないようだ。右脳と左脳をつなぐ脳梁というパイプが細いため、情報の流れが遅く、左右別々に使っている可能性が高い。このような脳の特徴は男性に顕著である。

以上の心模様から、東芝に限らず多くの専門経営者がとった思考、行動を振り返ってみると、なるほど、と思える部分があったのではないだろうか。経営者と言っても、たかが人、されど人、と見たほうが妥当ではないか。

ところで最近、経営学の世界では、ファミリービジネス(同族経営)を高く評価する傾向が見られる。東芝や日産自動車のような日本を代表する「専門経営者企業」が失態を演じたことで、ますます、その限界が指摘されるようになってきた。「その場しのぎのリリーフ投手」にすぎないと。

ファミリービジネス経営者は家を捨てられない

では、ファミリービジネスの経営者は、専門経営者と別の心を持っているのだろか。前述したような思考、行動においては共通している。ただし、決定的に違う点がある。それは、辞任したとしても「家(=家業)」を捨てられないという規範だ。「家」から排除されるということは、経営者としてだけでなく、勘当されたことに等しい。そのため、会社に対する「執着度」が専門経営者よりもはるかに高いケースが散見される。言い換えれば、「家」のことしか考えていない。したがって、すべての行動が「家」の繁栄のためであり、「転職先」など、まず考えていないだろう。

一方、専門経営者として各社のトップを渡り歩く人は、本務(経営)と同様、いやそれ以上の精力を、職探しに繋がる人脈形成に傾けている。エグゼクティブ人材バンクには、このような人たちの名前がずらりと並んでいる。フェイスブックをはじめとするSNSを見れば、有力者とゴルフやディナーを楽しむ姿を「広報」している。

車谷氏は人脈が広いことで知られている。だからこそ、東芝会長、社長というポストも転がり込んできた。辞任に追い込まれたが、豊富な人脈ゆえ、捨てる神あれば、拾う神ありである。車谷氏は「しばらく充電したい」と語っているが、すでに次なるお誘いが来ているのではないだろうか。

日本では全企業の95%がファミリービジネスである。その筆頭格がトヨタ自動車だろう。とはいえ、有名大企業に限れば、専門経営者が司るところが多い。ファミリービジネス礼賛の時代だが、あわせて専門経営者の改革を問わなくてはならない。株主重視経営が定着した中で翻弄される専門経営者の思考と行動をウォッチし、分析していく必要性が高まってこよう。はたして、サラリーマン社長は、サラリーマンから脱却できるのだろうか。

長田 貴仁 経営学者、経営評論家

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おさだ たかひと / Takahito Osada

経営学者(神戸大学博士)、ジャーナリスト、経営評論家、岡山商科大学大学客員教授。同志社大学卒業後、プレジデント社入社。早稲田大学大学院を経て神戸大学で博士(経営学)を取得。ニューヨーク駐在記者、ビジネス誌『プレジデント』副編集長・主任編集委員、神戸大学大学院経営学研究科准教授、岡山商科大学教授(経営学部長)、流通科学大学特任教授、事業構想大学院大学客員教授などを経て現職。日本大学大学院、明治学院大学大学院、多摩大学大学院などのMBAでも社会人を教えた。神戸大学MBA「加護野忠男論文賞」審査委員。

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