東芝のゴタゴタが映す「社長の器」の普遍的価値 サラリーマン社長の思考と行動の本質とは何か

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出世する人は能弁だけでは不十分であり、非言語コミュニケーションにも長けていなくてはならない。具体例の一つが笑顔である。銀行マン出身の車谷氏は、「紳士の東芝」にふさわしい落ち着いた品位のある表情と話し方だった。西室氏、岡村正氏、西田氏に共通していたのは、「満面の笑み」と偉そうに感じさせない人当たりの良さである。たとえ外面だけであったとしても、コミュニケーション能力、表現力を含むパフォーマンスは一流であったと言えよう。

日本では上司に「お世辞を言う」とか、「取り入る」といった表現を使うと、何かずる賢い人間のように捉えられてしまう。だが、これらのパフォーマンスは「迎合行動」の1つであり、社会的コミュニケーション手段としては非常に重要である。これを実践できる人は、上下、対外的人間関係を円滑に構築できる。

卓越した実績を上げなければ出世街道は歩めない

ただし、笑顔を振りまこうが、上司に取り入ろうが、出世街道を上り詰めるためには大前提となる条件がある。言うまでもない。上司の指示に従い、ときには自発的に提案型の行動を実践し、仕事で卓越した実績を上げることだ。これこそが上司から信頼を得る最強のパフォーマンスと言えよう。なぜなら、部下が活躍し目標達成に貢献してくれれば、上司の管理能力に対する社内評価が高まるからだ。

ちなみに、西田氏はアメリカ駐在時代の上司で東芝の社長、会長を務めた後、日本郵政社長に就いた西室氏の覚えめでたく、岡村正氏の後任社長に任命された。車谷氏は三井銀行(現・三井住友銀行)時代に秘書として仕えた小山五郎元頭取から、事実上のマンツーマン教育を受けている。出世できないどころか、リストラされるなど辛酸を嘗めてきたサラリーマンからすれば、うらやましい限りだ。

ところが近年、「下」(社員、事業部長、グループ会社社長など)から不満の声が外にも漏れ伝わるようになっていた。西田氏は、自身が「ストレッチ」と称した非常に高い目標数値を突き付けた。佐々木則夫社長は、さらに厳しいマネジメントを展開した。そして、後任の田中久雄社長の時代に好業績をはじき出すための道具として駆使した不正会計が発覚する。

東芝再生の切り札として乗り込んできた車谷氏も、「物言う株主(アクティビスト)」対策のために数字を上げなくてはならないというプレッシャーに直面する。結果的に各責任者を厳しく問い詰めるようになっていた。こうした経営管理が心理的反発を招き、「下」だけでなく社外取締役からも支持が得られなくなっていた。4月はじめに、取締役会議長で指名委員会委員長でもある永山治氏(中外製薬特別顧問・名誉会長)が、6月の株主総会を前に辞任するよう促した、との情報も流れている。

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