東芝のゴタゴタが映す「社長の器」の普遍的価値 サラリーマン社長の思考と行動の本質とは何か

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非を認めない思考特性は、大きな獲物を捕らえていた原始時代から見られた。原始時代に道をまちがえたからといって獲物も取らずに引き返せただろうか。何も捕獲せず(目標を達成せず)に引き返せば、洞穴で待っている家族は飢え死にしてしまう可能性がある。そこで、自分の意思決定は正しかったと思い込み、まちがいを認めたがらない「認知的不協和」が生じるのだ。戦時中の「欲しがりません勝つまでは」の思考に似ている。ただし、より優れた経営者は、この性を自覚していた。パナソニックの創業者である松下幸之助氏の言葉がそれを証明している。

「朝令暮改では遅すぎる。朝令昼(朝)改せよ」

だが、こうした忠告に耳を傾けず、失敗する経営者が後を絶たない。だからといって、何に対しても聞く耳を持てばいいというようなものでもない。業績が低迷すると、「現場を回ってコミュニケーションを深めています」と誇らしげに言う経営者が多い。それもケース・バイ・ケースである。「現地現物」が伝統となっているトヨタ自動車の豊田章男社長でさえ、「何が何でも相手の場所に行って会議をやっているのは現地現物ではない」と釘を刺している。

情報が溢れすぎ、自分1人では情報が取捨選択できなくなる「過剰負荷環境」に陥れば、新たな情報を受け入れない「退避症候群」になる。この心理状態に置かれると、経営の行方を左右する非常に重要な情報であったとしても、あまり重要でない、と判断しかねない。

「沈黙は金なり、雄弁は銀なり」

「経営者は孤独だ」と自ら口にする経営者には、意外と社内では肝心なことしか話さない人が少なくない。そのような経営者が、記者会見やIR(投資家向け広報)ミーティング、株主総会などで檀上に上がり堂々とスピーチをする姿を見ていると、「沈黙は金なり、雄弁は銀なり」の諺を実践しているようだ。社外取締役や経営コンサルタント、時にはジャーナリストからも意見を聞いているようだが、経営上の深刻な悩みともなれば、自分の胸の内に秘めている。

「トップは弱みを見せないものだ」という社会的プレッシャーがかかると、1人で考え込む行動に拍車がかかる。有名企業の経営者ともなれば、株主、役員会議、従業員、マスコミなどからかかる圧力は計り知れない。

窮地に追い込まれた経営者ほど、能弁さが影を潜め、一言二言しか口にしないようになる。車谷氏が記者にCVCの買収提案に関して突撃取材を受けたとき、「その点については取締役会で議論します」と一言だけ残し、黒塗りの車に乗り込んで去っていった。車谷氏の発言内容は事実を述べたので嘘ではない。しかし、テレビを見た人の目には逃げているように見える。他の同じような事例に当てはめてみても、本当に逃げている場合もあるが、そうではなく、単に考えがまとまっていないことも多々ある。

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