人が「名門大学への入学」に執着する本当の理由 不正入試スキャンダルが示す能力主義の問題

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つまり、名門大学への入学は喉から手が出るほど欲しがられている褒賞だというものだ。このスキャンダルが注目を集めた理由は、有名芸能人やプライベートエクイティ・ファンドの大物が関わっていたことだけではない。彼らがお金で買おうとした入学の権利が、多くの人が切望するものであり、熱狂的に追い求められる対象だった点にもあったのだ。

これはなぜだろうか。一流大学への入学が心底から切望されるようになり、特権を持つ親たちが不正を働いてまで子供を入学させようとするのはなぜだろうか。あるいは、不正を働くほどではないにせよ、子供のチャンスを高めるために個人向け入試コンサルタントや試験準備コースに数万ドルを費やし、数年間の高校生活を、APクラス(大学レベルのカリキュラムが学べるプログラム)、経歴の積み上げ、プレッシャーに満ちた競争といったストレスだらけの試練に変えてしまうのはなぜだろうか。

名門大学への入学がわれわれの社会において大きな位置を占め、FBIが多大な法執行資源をつぎ込んでまで不正を探し出したり、入試スキャンダルのニュースが新聞の見出しを飾り、犯人の起訴から判決に至るまでの数カ月にわたって世の耳目を集めたりするようになったのはなぜだろうか。

大学入試への執着の背景にあるもの

大学入試への執着は、この数十年の不平等の拡大に端を発している。誰がどこに入るかにかかるものがいっそう大きくなっているという事実の反映なのだ。上位10%の富裕層が残りの人びとから離れていくにつれて、一流大学に入ることの賞金は増していった。50年前、大学への出願にまつわる悩みはもっと小さかった。四年制大学に進むのはアメリカ人の5人に1人にも満たなかったし、進学する者も地元の大学に入る傾向が強かった。大学ランキングは現在ほど重要ではなかった。

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だが、不平等が増すにつれ、また大学の学位を持つ者と持たない者の所得格差が広がるにつれ、大学の重要性は高まった。大学選択の重要性も同じように高まった。いまでは、学生は自分が入学できる最もレベルの高い大学を探し出すのが普通だ。

子育てのスタイルも、とりわけ知的職業階級で変わった。所得格差が広がれば、転落の恐怖も広がる。この危機を回避しようと、親は子供の生活に強く干渉するようになった──子供の時間を管理し、成績に目を光らせ、行動を指図し、大学入学資格を吟味するのだ。

支配的で過干渉なこうした子育ての流行は、どこからともなく生じたわけではなかった。それは、高まる不平等への気がかりだが無理もない反応であり、中流階級(ミドルクラス)の生活の不安定さを子供に味わわせたくないという裕福な親の願いなのだ。

有名大学の学位は、栄達を求める人びとの目には出世の主要な手段だと、快適な階級に居座りたいと願う人びとの目には下降に対する最も確実な防壁だと映るようになった。これこそ、自制心を失った特権階級の親が不正入試に手を染めてしまう心理なのだ。

だが、経済的不安がすべてを語るわけではない。シンガーの顧客は、下降に対する防衛策だけでなく、ほかのものも買っていた。目には見えにくいが、より価値のある何かを。子供を名門大学に入れるようにしてやることで、彼らは能力という借り物の輝きを買っていたのである。

マイケル・サンデル ハーバード大学教授

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Michael Sandel

1953年生まれ。専門は政治哲学。ブランダイス大学を卒業後、オックスフォード大学にて博士号を取得。2000年から2005年にかけて大統領生命倫理評議会委員。1980年代のリベラル=コミュニタリアン論争で脚光を浴びて以来、コミュニタリアリズム(共同体主義)の代表論者として知られる。ハーバード大学の学部科目"Justice(正義)"は延べ1万4000人を超す履修者数を記録。日本ではNHK教育テレビ(現Eテレ)で『ハーバード白熱教室』(全12回)として放送されている。

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