人が「名門大学への入学」に執着する本当の理由

不正入試スキャンダルが示す能力主義の問題

依頼人に対しては、標準的な「裏口」戦略は自分の不正工作とくらべて「10倍のお金」がかかるうえ、確実性に劣ると語っていた。大学に大口の寄付をしたからといって、入学が保証されるわけではなかった。一方、賄賂と偽のテストスコアという「通用口」はそれを保証したのだ。「家族は保証が欲しいのです」と、彼は説明した。

「裏口」から入ろうと「通用口」から入ろうと、お金で入学資格を買うことは同じであるにもかかわらず、この2つの方法は道徳的には異なっている。1つには、裏口が合法的であるのに対し、通用口はそうではない。

連邦検事はこの点をはっきり述べている。「われわれが問題としているのは、建物を寄付すると、大学が寄付者の息子や娘を合格させやすくなるということではありません。ペテン行為、偽のテストスコア、偽の運動成績証明書、偽の写真、賄賂を受け取る大学当局者のことなのです」。

「裏口」と「正門」の違いは?

シンガー、彼の顧客、賄賂を受け取ったコーチを起訴しつつも、連邦捜査局は大学に対し、新入生クラスの席を売ってはならないと言っていたわけではなかった。ただ不正な策謀をとがめたにすぎなかったのだ。

法的な面はさておき、裏口と通用口はこの点で異なっている。親が多額の寄付によって子供の入学許可を買う場合、そのお金は大学に渡り、大学はそれを使ってすべての学生に提供する教育の質を向上させることができる。シンガーの不正工作の場合、お金は第三者の手に渡り、大学自体の支援にはほとんどあるいはまったく使われない。

とはいえ、公正という観点からすると「裏口」と「通用口」を区別するのは難しい。ともに、裕福な親を持つ子供を優遇するものだからだ。彼らは、入学するのに自分よりふさわしい志願者に代わって入学を許される。どちらの入り口も、お金が能力(メリット)に勝るのを認めるのである。

能力に基づく入試は、「正門」からの入学を定義する。シンガーの言葉を借りれば、正門とは「自力で入ることを意味する」。この入学方法こそ、ほとんどの人が公正と考えるものだ。志願者は親のお金ではなく、本人の能力に基づいて入学を許されるべきなのである。

もちろん、実際にはそれほど単純な話ではない。裏口だけでなく正門にもお金がついてまわるのだ。能力の尺度を経済的優位性から切り離すのは難しい。SATのような標準テストは、それだけで能力を測るものであり、平凡な経歴の生徒も知的な将来性を証明できるとされている。だが実際には、SATの得点は家計所得とほぼ軌を一にする。生徒の家庭が裕福であればあるほど、彼や彼女が獲得する得点は高くなりやすいのだ。

裕福な親は子供をSAT準備コースに通わせるだけではない。個人向けの入試カウンセラーを雇い、大学願書に磨きをかけてもらう。子供にダンスや音楽のレッスンを受けさせる。フェンシング、スカッシュ、ゴルフ、テニス、ボート、ラクロス、ヨットといったエリート向けスポーツのトレーニングをさせる。大学の運動部の新人として採用されやすくするためだ。こうした活動は、裕福で熱心な親が、入学を勝ち取れる素養を子供に身につけさせるための高価な手段の一つなのである。

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