人が「名門大学への入学」に執着する本当の理由 不正入試スキャンダルが示す能力主義の問題

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この入試スキャンダルは万人の怒りを買った。アメリカ人の意見が何ひとつ一致しそうにない対立の時代に、この事件は政治的立場を超えて膨大な報道と非難を呼び起こした──フォックスニュースもケーブルテレビ局のMSNBCも、ウォールストリート・ジャーナル紙もニューヨーク・タイムズ紙もこぞって取り上げたのだ。名門大学へ入学するための贈賄や不正行為が非難に値するという点では、誰もが同じ意見だった。

だが、人びとの憤慨が表していたのは、違法な手段を使って子供を一流大学に入れようとした特権階級の親に対する怒りよりも深い何かだった。人びとがどうにか言葉にした通り、それは象徴的なスキャンダルだった。つまり、成功を収めるのは誰であり、それはなぜかという点について、いっそう大きな問いを提起していたのである。

リベラル派のエリートを批判

憤慨の表現が政治的な色合いを帯びるのは避けられなかった。トランプ大統領の代弁者たちがツイッターやフォックスニュースに現れ、不正入試の罠にはまったハリウッドのリベラル派をののしった。

「こうした人たちが誰なのかを見てください」大統領の義理の娘であるラーラ・トランプは、フォックスニュースで語った。「ハリウッドのエリートたち、リベラル派のエリートたちです。彼らは常日頃から万人の平等について語り、誰もが公平なチャンスを手にすべきだと言っていました。ここに見られるのは何よりも大きな偽善です。彼らは小切手を切って不正を働き、子供をこれらの大学に入れようとしました──その地位は本来、そこにふさわしくない子供たちに与えられるべきではなかったのです」

一方リベラル派は、不正入試によって、入学資格のある生徒がしかるべき地位を奪われたという点では同じ意見だったものの、このスキャンダルを、より広範な不正義があからさまになった例だと見なしていた。つまり、違法行為ではなくても大学入試では富や特権が物を言うということだ。

起訴を発表した際、連邦検事は彼が危機に瀕していると考える1つの原則を強調した。「富裕層向けの別枠の入試制度があってはならない」と。だが、メディアの論説委員たちがすぐさま指摘したところによれば、大学入試においてお金が物を言うのはありきたりのことであり、それは、アメリカの多くの大学が卒業生や多額の寄付者の子供に特別な配慮を払う点に顕著に現れているのだ。

不正入試スキャンダルでリベラル派のエリートをたたこうとするトランプ支持者に対し、リベラル派はこんな報道を持ち出して反撃した。大統領の義理の息子のジャレッド・クシュナーは、平凡な学業成績にもかかわらずハーバード大学に入学したが、これは裕福な不動産開発業者である父親が大学側に250万ドルを寄付したあとのことだったというのだ。トランプ自身、子供のドナルド・ジュニアとイヴァンカがペンシルベニア大学ウォートン校に入学した頃、150万ドルを寄付したと報じられている。

不正入試の黒幕であるシンガーは、巨額の寄付をすれば、入学資格を満たさない志願者でも「裏口」から入学できる場合があることを認めていた。だが彼は、費用対効果の高い代替案として、「通用口」と称する独自の手法を売り込んだ。

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