元技術者の異端シェフが危機で見せた大胆行動 電子部品会社から転身して三つ星獲得の凄腕
米田:飲食業界は、2度目の緊急事態宣言の発出時には、補償金が出ることが決まりました。1日当たり6万円ももらうのだから、これ以上はもういいだろう。そんなご指摘をいただくこともあります。でも、これは規模などが一切考慮されない一律支給で、公平な制度とは言えません。また、レストランの運営にはさまざまな業界がつながっていて、彼らも等しく補償されるべきなのです。
──なるほど。飲食店が休業や時短営業をすることによって、食べ手である私たちがすぐ想像できるのは、食材を提供する生産者ですが、おしぼりやクリーニング、花の業界など、レストランはさまざまな業界と関連しているのですね。(編集注:緊急事態宣言の再発令により影響を受けた事業者にも一時金が支給されることになりました)
米田:僕は、自分の業界だけが救わればいいとは思えないし、救われる人と救われない人がいる、そんな不公平な中で自粛をすべきではないと思います。すべての業界に救済を求める権利がある。そこで、僕自身がどんな活動をして、誰と会い、何をしたか、なるべくリアルタイムで、SNSで公開していました。成果が上がったら、それもすべて報告しています。
繰り返しますが、僕は、飲食業界だけが救われればそれでいいわけではなく、すべての業界で、自粛と補償がセットになり、雇用と生活が守られるべきだと思います。そのため「自分の業界も守られるべき」と考えた人が、行動するときに参考にしてもらえるように、なるべくすべてをオープンにしたのです。
危機に面して見えてきたレストラン業界の脆弱さ
──これまで、料理人と政治活動はあまり結びつきませんでした。今回活動してみて、新しく見えてきた問題点などはありましたか。
米田:僕は、レストランが好きで他業種(編集注:元エリートエンジニア)から転身しましたから、この業界ひと筋という人とは、また違った視点を持っているかもしれません。その視点で業界を俯瞰すると、キャリアを積めば積むほど、飲食業界の脆弱さが明らかになってきました。
そもそもレストランというのは、客単価と席数を掛け合わせた収入の上限が決まっているわけです。つまりどれだけ頑張っても、レストラン1店舗の営業だけでは、それ以上の収入は得られない。キャリアを積んでも収入には天井があり、長年勤務したスタッフにも十分な給与を払えない。
ご存じのように、欧米の食文化先進国と比較すると、日本ではトップシェフでも収入が低いのが事実です。ところが、料理人になるような人は、利他主義者が多いので、おいしい料理でみんなに喜んでもらえればそれでいいと、業界の仕組みを変えるために政治に働きかけたりはしないんですね。また、料理人は職人であり、政治活動などするものではないという、古い思い込みもありました。今回の事態で、飲食業界が長い間抱えていた問題点が、表出した部分もあると思います。