元技術者の異端シェフが危機で見せた大胆行動 電子部品会社から転身して三つ星獲得の凄腕
米田:料理人は利他主義ですから、ひとりでも食事に来てもらったり、自分の自慢の料理を食べたいと言ってもらえたりするのは、それだけでとてもうれしいものです。少なくとも「HAJIME」は、おひとり様も大歓迎しています。物理的にご対応できない状況はあっても、それはきちんとお伝えしますので、まずは気軽に問い合わせてみていただきたいですね。だいじょうぶ、料理人って意外と優しいですから(笑)。
「ゴ・エ・ミヨ2021」の「今年のシェフ賞」を受賞して
──先ごろ「ゴ・エ・ミヨ2021」の「今年のシェフ賞」を受賞しました。これは2020年の活動を讃えて贈られる賞なので、米田さん以外は考えられない、誰もが納得の受賞でした。
米田:個人的にもとてもうれしいです。『ゴ・エ・ミヨ』はフランスでの修業時代、表紙が取れてページがバラバラになるまで読み込みました。フランスには代表的なガイドブックがふたつあります。ひとつは黄色い表紙が目印の黃本こと『ゴ・エ・ミヨ』、もうひとつはみなさまご存じの赤本(編集注:ミシュランガイド)です。このふたつは、どちらもレストランガイドですが、その本質は少し異なります。
僕の印象では、『ゴ・エ・ミヨ』は、イノベーティブな取り組みをしている挑戦者のような新しいシェフを発掘して、いち早く評価するガイドブックでした。僕が将来やりたいと思っていたレストランの方向性には、こちらがより近い気がしたのです。
当時は修業の身でお金もありませんから、闇雲にレストランに足を運ぶこともできず、黄本と赤本を突き合わせて読み込み、「ここは勉強になるのではないか」という1軒を選び抜いて、食べ歩きをしていました。
──そんな思い入れのあるレストランガイドで最高の賞である「今年のシェフ賞」をされたいま、今後の目標はありますか。
米田:新しく創造される文化は希望ですから、『ゴ・エ・ミヨ』を持ってお客様が来てくれる場所を守りたい。僕は、『ゴ・エ・ミヨ』の精神と、僕の料理は相性がいいのではないかと感じていますので、20点満点を目標にしています。
ミシュラン三ツ星と『ゴ・エ・ミヨ』20点の両方を得たシェフは、まだ世界に2人しかいないのです。僕は3人目を目指しています。
──ありがとうございました。飲食業界が平和を取り戻し、米田さんが20点満点を目指して、わが道を追求する。そんな日が早く来ることを楽しみにしています。
インタビューを始めるにあたり、真っ先に「現在の状況で最優先すべきは感染者数を抑え込み、医療を守ること。僕たち飲食業界もそれはよくわかっています。そのために生活がどう守られるべきかを提案したい」と言葉を発した米田さん。この1年、政治家との対話シーンなど、メディアを通じて厳しい表情を見かけることが多かった米田さんですが、実際にお会いすると、クールな顔立ちとは裏腹に、冗談が好きでよく笑う表情が印象的でした。話にオチをつけ、インタビューされる側なのにもかかわらず聞き手の筆者を笑わせてくれるセンスのよさは、さすが関西人と思ってしまうのは東の人間のひがみでしょうか。
救われる人と救われない人がいる不平等な世の中ではいけない。そんな米田さんの信念がようやく届き、4月に実施された「まん延防止等重点措置」に伴う協力金の一律支給が見直されることになりました。また、米田さんが理事を務める「食文化ルネサンス」では、2021年4月8日現在「(一律時短ではなく)科学的根拠に基づいた感染対策の基準の制定と、それをクリアした飲食店に通常営業を求める」ことを目的とする署名活動を行っています(4月8日付け米田さんの公式FBをご確認ください)。頑張れ、米田さん。これからもひとりのレストラン愛好家として、米田さんと飲食業界の未来を見守っていきたいと思います。
(文・写真/江藤詩文 撮影協力/パレスホテル東京)
1972年、大阪府出身。少年時代から特に理数分野で才能を発揮し、近畿大学理工学部電気電子工学科に進学。電子部品メーカーでエンジニアとしてキャリアをスタートするも、1998年、料理の持つ創造性に魅了され、料理人に転身する。日本とフランスで研鑽を積み、2008年、自身の理想のレストランを具現化した「Hajime RESTAURANT GASTRONOMIQUE JAPON(ハジメ・レストラン・ガストロノミーク・ジャポン)」を開店。当時はまだ日本にあまり浸透していなかったガストロノミー(フランス語でガストロノミーク)を店名に掲げ、レストランや美食を文化として提唱する。
2009年、ミシュラン史上世界最短の1年5カ月で三ツ星に輝く。2012年、フランス料理の枠にとらわれず、より自由で革新的な表現を目指して店名を現在の「HAJIME(ハジメ)」に変更。改名後に再びミシュラン三ツ星を獲得。「フランス料理」と「イノベーティブ」の2ジャンルで三ツ星を得た、世界でも類を見ないシェフとして評価される。
2020年、危機に苦しむ飲食業界のために、署名活動をはじめさまざまな活動を展開。多くの料理人や飲食店を救済する。2021年2月、「ゴ・エ・ミヨ2021」で「今年のシェフ賞」を受賞。
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