「生きる歓び」を取り戻す「資本論」の使用法

矛盾していても手放したくない「身体感覚」

その結果、コカ・コーラ社の販売する水を買わなければ、キレイな水が飲めなくなる。貧乏人は水にアクセスできない。ひどすぎだ。おいしくて健康、さわやかコカ・コーラ。集会で怒りの雄たけびが湧き上がる。「コッカ・コーラッ、フ〇ック!フ〇ック!フ〇ック!」。うわああああああ!!!

ものすごい熱量に胸をうたれる。身体が緊張でバリバリに張りつめる。血沸き、肉躍る。おんどりゃー、なにがコカ・コーラじゃー、ふざけんじゃねえと。

コーラがうまい、うますぎる

だがそのときのことだ。わたしの横で音がきこえる。プシュッ!!! うん? みると「くたばれ、コカ・コーラ」と叫んでいたインドの活動家がコカ・コーラの缶をあけてグビグビと飲みはじめたのだ。「アァ、うめえ!」。

いや、言葉がわからないので、なんと叫んでいたのかはわからない。だが、あきらかに至福の笑顔だ。うまい、うますぎる。それを見た瞬間に、わたしの緊張が一気にほどける。身体がドンドン軽くなる。もう空っぽだ。異様な解放感がわたしをつつむ。きもちいい。

あれはなんだったのか。その後、ホテルまでの帰り道、日本から一緒に行った友人がこう言っていた。「自分がもっているペットボトルの水をみたら、コカ・コーラ社のものだったよ。猛省します」。

しかしわたしは違う。だって、ムンバイだよ。あの蒸し暑いテントの中で飲んだコーラがどれほどうまかったことか。ああ、ぼくも飲みたい。それしか思わなかった。ホテルに着いてからみんなでビールを空ける。だがビールを飲むわたしの頭はコーラに夢中だ。うまい。

いや、わかっているのだ。コカ・コーラ社に問題があるということは。渇きを潤すそのよろこびが、商品購入と同じではないのもわかっている。人間のよろこびと消費の欲求は同じではない。

それが同じであるかのように思わせるのが資本主義だ。水の私有化だ。新自由主義だ。本来自然そのものであり、無料であった水を独占し、金をとる。商品であることを認識させる。やがて、それが当たり前になる。そしたら、同じ値段でもっとおいしいものをと、いろんな商品ができていく。企業はボロ儲け。貧乏人どもは臭い水でも飲んどれ。

おかしい。だが、それでも絶対に切り捨てたくはない。コーラがうまいと思ったこの感覚を。頭ではわかっていても、それでも身体がうまいといってきかないのだ。たとえ矛盾していても、この感覚を絶対に手放したくないと思う。くたばれ、コカ・コーラ。コーラが飲みたい。

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