「交渉がうまい人」の有利な条件を引き出す技術 交渉はあえてリスクをとったほうがうまくいく

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ある日、事務所近くのジムを訪ねました。カウンターにいたマネージャーに入会金と月会費を尋ねたところ、「普通なら入会金は50ドル、月会費は95ドルだ。でも今日までキャンペーン期間だから、今日入会を決めれば、入会金は25ドルだ。でもこれは今日までだ」。私は「これはハッタリだ」と思い、「もう少し下げてくれ」と言ってみました。

しかし、どうしても合意してくれません。「契約者を増やしたいだろうから、すぐ値下げに応じてくるだろう」と思いきや、そうでもないのです。そっけない返事です。その場の雰囲気もあり、出直すことにしました。

3日後に再び訪ねたところ、対応してくれたのは前回とは違うマネージャーです。前回と同じように料金体系について尋ねると、「入会金50ドル、月会費95ドルだ」と。その後、「3日前には入会金は25ドルだったではないか」などと言っても、値下げに応じてくれません。キャンペーン期間中という話は本当だったのです。

そもそもマネージャーには値下げの権限がないのか、交渉に乗ってきません。3日前にはそのことに考えが及びませんでした。もっと値下げしてもらえる、というほうに賭けてリスクを取ったのですが、失敗してしまったのです。結局50ドルの入会金を支払い、入会することにしました。

“失敗しても致命的でない交渉”を実践して学ぶ

時には、こういうこともあります。でも私は、日頃から、こういった“失敗しても致命的ではない交渉”を、勉強だと思って意図的にやっています。失敗からも学ぶことができるからです。

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話は変わりますが、アメリカで多くのベンチャー経営者やベンチャー企業への投資家と話をしていると、リスクを負って失敗した経営者に投資をする投資家が多いことに驚かされます。

ある経営者の興した会社に投資をして大損を被った投資家が、同じ経営者の次の起業にまた投資をしているのです。彼らに話を聞くと、当たり前のようにこう言います。

「彼は、リスクを負って失敗しただろう。失敗から多くを学んでいるよ。失敗していない経営者より次に成功する確率は高いんだ。投資しない手はないよ」

日本ではどうでしょうか。今まで多くの優秀で勤勉な日本人の経営者とも付き合ってきました。しかし彼らの経営ぶりを、投資家や親会社は減点主義で評価していることも多いようです。失敗をしないこと、損を出さないことこそが大事だと考えているのです。経営者が1人で物事を決めると失敗したときに非難が集中するのでそれを嫌がり、多数決主義で稟議システムによって決めるスピード感もリスクを負わないことによる弊害でしょう。

日本が、経営者がリスクを負ってチャレンジをした結果失敗したとしても、ポジティブな評価を与えるような社会に変わっていけば、日本企業はさらなる発展をするに違いありません。私は、アメリカで多くの経営者の成功や失敗を見ていて、心からそう思います。

大橋 弘昌 米国ニューヨーク州弁護士

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おおはし ひろまさ / Hiromasa Ohashi

日本国外国法事務弁護士。1966年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、サザンメソジスト大学法科大学院卒業。西武百貨店商事管理部、山一證券国際企画部を経て渡米し、ニューヨーク州弁護士資格を取得。米国の大手法律事務所ヘインズ・アンド・ブーン法律事務所で5年間のプラクティス後、2002年に大橋&ホーン法律事務所を設立。現在、ニューヨーク、ダラス、東京の3都市に事務所を構え、日本企業の在米現地法人を中心に100社以上のクライアントを持つ。会社法、M&A、雇用労働法、訴訟法、税法などに精通。

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