「交渉がうまい人」の有利な条件を引き出す技術 交渉はあえてリスクをとったほうがうまくいく

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この裁判では、〝X社が契約どおりにY社に対してコンサルティング・サービスを提供したかどうか〞が争いになっていました。

ところがこういった事実は証明するのがなかなか難しいものです。コンサルティング・サービスは目に見えるものではないからです。もし物の売買であれば、売主が「欠陥のない物を納期どおりに納品した」「買主が対価を支払ってこない」ということを証明するのは比較的簡単なのですが。

このY社からの12万ドルのオファーについては、X社の担当者であるAさんと相談のうえではねつけることにしました。しかしAさんは不安も残る様子です。

「このオファーをはねつけてしまえば、二度と和解のチャンスは来ないかもしれない」と、弱気になっているようです。

しかしここは断固とした態度で裁判手続きを進めることにしました。Y社の弁護士に対して、強気の姿勢を崩してはいけません。

こちらに有利となるプレッシャーをかける

「とことん争い、30万ドル全額と弁護士代すべてを回収するつもりだ」「そしてY社の社長および幹部社員のディポジションを行う」と伝えました。

そして裁判所には、実際にディポジションの日取りをスケジュールするようリクエストしました。

ちなみにディポジションとは、法廷外にて、原告・被告それぞれが呼んだ証人に、真実のみを述べることを宣誓させたうえで証言をさせる「証言録取手続き」のことです。たとえば弁護士事務所の会議室といった場所で行われます。弁護士の質問に証人が答える形で進められ、その証言は証拠として用いられることになります。またディポジションでの証言の様子は録画されます。原告の弁護士に痛いところを突かれて、しぶしぶ答えた被告の表情も録画されてしまうのです。

われわれは、もしディポジションが行われれば、その場で、Y社社長に、「あなたは〇年〇月〇日、X社の社長とのミーティングの場で『X社のコンサルティング・サービスには大満足しています。よい仕事をしていただいてありがとうございました』と発言していましたね」と質問する予定でいました。

これは実際にあった発言なので、Y社の社長は覚えているはずです。ディポジションでは「はい、言いました」と回答しなくてはいけません。噓の回答をすれば、偽証罪に問われます。

私は、Y社社長にとって自らのディポジションがスケジュールされたことが大きなプレッシャーになっていることはわかっていました。Y社に不利な発言が証拠として明らかになることは避けたいはずです。

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