「技術革新の追求を礼賛する人」に伝えたい真実 失敗例は多数!机上の空論より優先すべきこと

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ほかの国にも目を向けると、世界1位はアイルランドだ。同国は1973年にEU(当時はECだった)に加盟するまで製造業の比率は小さかったが、法人税率が低い(12.5%)ために多くの多国籍企業の誘致に成功した。今では製造業の輸出額の90%を多国籍企業が占めていて、国民1人当たり付加価値額は2万5000ドルを超え、スイスの1万5000ドルを上回っている。

スイスの製造業で思い浮かぶのは、ノバルティスやロシュ(いずれも製薬会社)、あるいはスウォッチ・グループ(ロンジン、オメガ、ティソといった腕時計の有名ブランドを傘下におさめる)ではないだろうか。

ところが、アイルランドの製造企業となると、頭に浮かぶのはアップル、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ファイザーといった企業で、いずれも外資系だ。

製品の輸出で貿易総額の90%以上を稼いでいる国は、中国とアイルランドだけではない。バングラデシュ、チェコ、イスラエル、韓国もそうだ。それに、ドイツも90%近い。アメリカは70%を下回っている。

貿易収支で見えてきた2つの事実

また工業製品の貿易収支に目を向けると、2つの事実が見えてくる。第1に、その国が工業製品の国内需要にどれだけ応えられているか、第2に、海外の需要にどれだけ応えられているかだ。

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予想どおり、スイス、ドイツ、韓国が貿易黒字国である一方で、アメリカは2018年の貿易赤字が8910億ドルとまた記録を更新した。これを換算すると、アメリカ人1人当たり約2700ドルの赤字となる。アジアから大量の電子機器、衣料品、靴、家具、キッチン用品などを輸入した代償だ。

だが、アメリカは1982年まで数世代にわたって貿易黒字を謳歌してきた。一方、中国は1989年まで長年、慢性的な貿易赤字に苦しんできた。そして今、アメリカは工業製品の輸出入において中国との大きな貿易不均衡に苦しんでいる。

はたしてアメリカが、対中貿易赤字を解消できる可能性はどのくらいあるのだろうか。それに、インドが中国のように製造大国として成功する可能性はどのくらいあるのだろうか。

バーツラフ・シュミル マニトバ大学(カナダ)特別栄誉教授

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Vaclav Smil

エネルギー、環境変化、人口変動、食料生産、栄養、技術革新、リスクアセスメント、公共政策の分野で学際的研究に従事。カナダ王立協会(科学・芸術アカデミー)フェロー。2000年、米国科学振興協会より「科学技術の一般への普及」貢献賞を受賞。2010年、『フォーリン・ポリシー』誌により「世界の思想家トップ100」の1人に選出。2013年、カナダ勲章を受勲。2015年、そのエネルギー研究に対してOPEC研究賞が授与される。米国やEUの数多くの研究所および国際機関で顧問を務める。著書に『エネルギーの人類史』(青土社)、『エネルギーの不都合な真実』(エクスナレッジ)、『中国の環境危機』(亜紀書房)など。(写真:Andreas Laszlo Konrath)

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