ノルマ未達組織が売上30%増を達成できた理由 組織を変えるのは天才ではなく「凡人のまね」

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例えば、医薬品メーカー、メルク社のメキシコの営業部隊は、骨粗鬆症特効薬フォサマックの売上不振に苦しんでいました。そこでこのPDアプローチを採用し、平均的なMR(営業担当者)のなかで営業成績が平均よりも高い「ポジティブな逸脱者」を体系的に探し出し、インタビュー調査をしていきました。

そこで明らかになったのが、メルクで営業成績を高めるのに役立つと考えられていたいくつかの社内ルールをかれらはまったく守っていなかったということでした。

例えば、7回ルールというものがあり、それは1日に7回担当するドクターに電話をしないといけないというものでした。しかし、そのような時間があったら、実際にドクターと会ったほうが効率的なわけで、かれらはこのルールをことごとく無視していたのです。

このような行動特性を明らかにしたうえで、それをメルク・メキシコのほかのMRに紹介し、それを採用することで実際に営業成績の上がった人たちの体験談をシェアしていきました。

ここで重要なのは、決して新たなプラクティスの採用を強制したのではないということです。あくまでも採用するか否かは本人の判断であり、ただ採用した場合は営業成績に直結することをデータとして共有していったのです。

このようなPDアプローチをとることにより、メルク・メキシコの売上は、いままでノルマ未達だったのに対し、1年後には30%増のノルマを達成することになったのです。

まず隗(かい)より始めよ=PDアプローチの本質

この事例からわかるのは、はじめに構造改革ありきなのではなく、まずは行動変容から始めるということです。しかも、その行動変容は原因を特定し、それを改善したものではなく、成功した行動を模倣することです。凡人の成功パターンであるため、多くの人にとって抵抗なく模倣することができます。天才のまねをすることはできませんが、凡人のまねは可能なのです。

それに対して、ベストプラクティスやベンチマーキングと呼ばれる手法は、社外の突出した成功例を導入しようとするものです。これらは突出しているがゆえに、天才の場合と同じく、まねすることが難しいものです。その結果、それらを強引に組織に導入しようとしても、組織内での抵抗、反発を招くことになり、失敗する可能性が高くなってしまうのです。

このような外からの借り物ではなく、すでにある内部の資源を活用し、ボトムアップで組織改革を進めていくのがPDアプローチです。

そのためにはまずは組織の根底的なプロセスである心理的・行動的な力、すなわち「ポジティブな逸脱者」の行動特性に着目し、このレベルからボトムアップ的に行動変容を促していくことが必要です。

人々の行動が変われば、組織の構造や仕組みも変えざるをえなくなります。メルク・メキシコで7回ルールが撤廃されたように、行動の裏付けがあり、成果が出ているのであれば、構造変革は容易になります。

「まず隗(かい)より始めよ」

これがPDアプローチの本質なのです。

原田 勉 神戸大学大学院経営学研究科教授

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はらだ つとむ / Tsutomu Harada

1967年京都府生まれ。スタンフォード大学Ph.D.(経済学博士号)、神戸大学博士(経営学)。神戸大学経営学部助教授、科学技術庁科学技術政策研究所客員研究官、INSEAD客員研究員、ハーバード大学フルブライト研究員を経て、2005年より現職。専攻は、経営戦略、イノベーション経済学、イノベーション・マネジメントなど。大学での研究・教育に加え、企業の研修プログラムの企画なども精力的に行っている。主な著書に、『OODA Management(ウーダ・マネジメント)』(東洋経済新報社)、『イノベーション戦略の論理』(中央公論新社)、『OODALOOP(ウーダ・ループ)』(翻訳、東洋経済新報社)などがある。

 

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