ノルマ未達組織が売上30%増を達成できた理由 組織を変えるのは天才ではなく「凡人のまね」

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自然界に見られる進化は、ゼロベースの抜本的改革からはほど遠いものです。そこで生じる変異には選択が生じ、自然は漸進的に進化します。脳腔の大きさを変える突然変異に、手足や胴体の変化が伴うことはありません。その進化のパターンはモジュール的であり、ごく一部が変異していくにすぎません。

これとは対照的に、組織変革を目指した人間の試みの大半は、大規模な再編成や新たな戦略的イニシアチブを伴うビッグバン・アプローチをとる傾向にあります。しかし、これは一か八かの賭けとなります。というのも組織変革は人々の行動変容を伴うものであり、当初の意図どおりに変革が進展していく保証は何もないからです。

コンサルティング会社が推奨するゼロベースの組織改革は、このような行動変容を前提としない技術的課題を念頭においていることがほとんどです。人々の行動が変わらないでいいのなら、それもいいでしょう。しかし、組織は人の集まりであり、組織を変えることは人の行動も変わらざるをえなくなるのです。

組織変革は、自然界と同様、モジュール型進化に従うほうが成功の確率は高まります。というのも、それによってより多くの実験が可能になるからです。

ある一部における改革は、それがたとえ失敗してもほかの部分に影響を及ぼすことなく元に戻すことができます。組織変革は、関与する人間の行動変容、心理的・感情的反応を伴うため、改革の帰結を事前に予測することは難しくなります。このような場合、漸進的に局所的変革を進め、うまくいかなければ元に戻し、また新たな策を試みるという試行錯誤の実験プロセスがカギとなるのです。

平均以上の成果を出す「ふつうの人」を探せ!

自然界では私たちの目に見える現象の背後に自己組織化された構造があり、それを根底から支えているものが物理的・化学的な力です。それと同じく、社会システムでも、そこに見られる現象、パターンの背後には何らかの構造があり、その構造を支えるのが自然界の力学に相当する心理的・行動的な力です。

ゼロベース改革は、この心理的・行動的な力に配慮することなく、構造と現象との因果関係のみを特定し、構造を変革しようとします。しかし、それは根底にある心理的・行動的な力学を無視しているがゆえに失敗する確率が高まるのです。

ポジティブデビアンス(PD)による組織変革は、それとは対照的に、この心理的・行動的力学に着目します。しかも、そこで問題を生み出す「原因」、言い換えると「悪者」を探すことはしません。というのも「悪者」を特定することは、特定された「悪者」の反発、抵抗を招き、逆効果になることが多いからです。

それとは逆に、PDアプローチはほかの組織メンバーと何もかわらない平均的な人に着目します。その「ふつうの人」のなかで平均よりも高い成果を出している人が「ポジティブな逸脱者」になります。つまり、能力や与えられたリソース面ではほかと変わらないけれども、平均以上の成果を出している人のことです。

PDアプローチは、この「ポジティブな逸脱者」を探すことから始まります。それは根底的なプロセスである心理的・行動的な力のなかで、「悪者」ではなく「善人」(=いい見本)を特定することにほかなりません。

この「善人」が特定できれば、次の段階としてその組織内での普及を図っていくことになります。その際に重要なのが、ボトムアップのアプローチをとるということです。つまり、トップダウンで強制的にその「いい見本」を普及させていくのではなく、自主的にそれを採用し、成果を出していくように仕向けていくことです。そのためには、「いい見本」が成果と連動していることがカギとなります。

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