本気で「ドラえもんを作る」20代教員の壮大計画 大企業でもベンチャーでもなく日大で研究
大澤研究室研究員兼RINGSスタッフとしてウニ型組織の具現化を担う杉浦愛実さん(28)はこう補足する。
「例えば100人いたら、100人で100人の夢をかなえ、自己実現を達成する組織です。一人ひとり異なる夢や目的が起点になれば、組織が生む価値も多様化できます」
大澤さんと大学で同学年だった杉浦さんは、価値基準を覆す発想に共鳴し、大手広告会社から転職した。大澤さんは学生時代から「人を巻き込みつつ幸せにする人」だったと振り返る。
RINGSのコミュニティーの基盤は、学内から選抜された学生40人のほか、学外のパートナーや専門性をもつプロボノなど。パートナーには、サイバーエージェントやソフトバンク、ベネッセ、愛知県豊田市などそうそうたる顔ぶれが並ぶ。RINGSはパートナーから資金を得て運営するシステムだ。
「一人ひとりのつながりや成長に着目し、コミュニティーを温めるのが主眼です。そうするとプロジェクトはどんどん生まれてきます」(大澤さん)
RINGSでは誰がどんなプロジェクトを提案してもいい。カーボンニュートラルに取り組むプロジェクトもあれば、文字について徹底研究するプロジェクトもある。それぞれ企業などに持ち掛け、共同研究を進めている。
世の中にまだない価値をつくる出発点
大澤さんが日本大学文理学部を選んだのには理由がある。日本大学はいわば「偏差値50の大学」だが、これは既存の価値軸でくくられた評価にすぎない。偏差値に代表される既存の価値軸ではまだ認められていない人たちと、世の中にまだない価値を創生できれば世界は変わる、と大澤さんは思ったのだ。
日本大学は国内で最も学生数が多く、中でも文理学部は18の異なる分野の学科が1つのキャンパスに集約されていることもチャンスと捉えた。
「間口の広いところでイノベーティブなことをやると、それに反応して感度の高い人が吸い込まれる流れが生まれます。価値創出の出発点としてはこれ以上ない環境だと考えました」(同)
学生には思い切り爆発してください、と呼び掛けている。その破片の1つがドラえもんにも連なる、との考えだ。
「ドラえもんをつくるために100人の組織をつくるより、そうやってつくるドラえもんのほうが価値があり、成功率も高いと見込んでいるんです」(同)
だが、大澤さんは研究者としても教育者としても入り口に立ったばかり。斬新なアイデアを生かすも殺すも上層部の判断次第だったはずだ。
大澤さんからRINGS構想を聞き、学部長や学長につないだのは同学部次長の谷聖一教授(57)だ。産官学のプロジェクトに学生が対等な立場で加われるのが魅力と感じたという。谷さんは「同僚としてまだ1年経っていませんが、私の中では今は大澤先生といえばドラえもんをつくる人というのが当たり前になっています」と笑みをこぼす。