本気で「ドラえもんを作る」20代教員の壮大計画 大企業でもベンチャーでもなく日大で研究

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ドラえもんをつくるうえでの課題の整理も、仲間の協力でどんどん深まった。まず議論したのはドラえもんの定義。このロボットはドラえもんだと思ってもらえるよう、社会的承認を得ることが大切だと気づいた。

「ドラえもんはタイムマシンに乗ってやってくる」という機能要件を満たすのは極めて困難だが、「いつも自分に寄り添って助けてくれるロボット」をつくれたらドラえもんと認めてくれるかもしれない。なぜなら、ドラえもんはのび太にとことん向き合って、のび太という1人を幸せにするロボットだということを多くの人が知っているからだ。必要なのは、人とロボットがかかわり合う関係の設計だという結論にたどり着いた。

こうして大学院生時代につくったのが、ミニドラを目指したロボットだ。ミニドラはドラえもんに登場する小型ロボットで、「ドララ」や「ドラドラ」といった単語しか発音しない。だが、アクセントや身振りで一定程度のコミュニケーション能力をもつキャラクターとして設定されている。

ミニドラを目指そうと考えたのは、「ドラドラ」という言葉だけを使ってしりとりができないかな、と思いついたのがきっかけだ。やってみると、一定のコミュニケーションを図れることがわかった。3~5歳児の語彙データを収集し、アクセントや抑揚を微妙に変えた約400通りの「ドラドラ語」に置き換え、プロの声優の声で収録した。このプログラムを内蔵したロボットは体長20センチほどの2頭身、顔はのっぺらぼうだ。アニメを忠実に再現した外見ではなく、ミニドラにふさわしい姿を追求した。

「ミニドラに似せてつくろうとすると、本物との違いに目がいきます。いかにミニドラっぽくするかではなく、ミニドラだと思ってみると確かにミニドラに見えるという抽象さがポイントだと気づきました」(大澤さん)

100人で100人の夢をかなえる「ウニ型組織」

夢の実現に向け、着実に前進してきたように見える大澤さんにも悩みがあった。大学院を出た後、どの職に就いてもドラえもんをつくれる気がしなかったのだ。大企業に入っても、大学の研究者になっても、ベンチャー企業を立ち上げても、組織のルールや予算、時間的な制約といった壁が立ちはだかり、ドラえもんをつくることに集中させてもらえそうにない。大澤さんは「どこかに入って何かを変えないとつくれない」と悟った。

選んだのが日本大学文理学部の教員だ。20年4月の採用とともに研究室も与えられた。だがドラえもんをつくるには、社会全体を巻き込む態勢が必須。その基盤が昨年12月に設立された日本大学文理学部次世代社会研究センター(RINGS)だ。

昨年12月、日本大学文理学部次世代社会研究センター(RINGS)の設立記者会見。大澤さんが「ドラえもん」をつくる基盤となる(写真:大澤さん提供)

センター長を兼務する大澤さんは、コンセプトをこう説明する。

「従来の組織や産官学連携のほとんどはプロジェクトベースで作られてきましたが、RINGSではコミュニティーをベースにしています」

例えば多くの会社では、利益を上げるために必要な部署が設置され、その部署にふさわしい人材を採用したり、育成したりする。そうなると、組織の目的を忖度(そんたく)してコマとして尽くす人材が求められる。これに対し、大澤さんが目指すのはそれぞれが自分の目的を追求する、「ありのままの一人ひとりの総体としての組織」が生むイノベーションや価値創出だ。大澤さんらは個人をウニのトゲになぞらえ、これを「ウニ型組織」と名付けている。

「みんながばらばらの方向を向いているのが美しさの根源であり、根っこではしっかりつながっていて、中においしいものが詰まっている」(同)

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