「無駄」や「非効率」がビジネスに不可欠な訳 伝説の広告人が明かす「不合理」な問題解決策
2.ある航空会社は空の旅が提供するものを変えた――そして、プレミアムシートによって売り上げを年間800万ポンドも増やした。
3.あるソフトウェア会社はコールセンターの手順を、一見すると不合理なものに変えた――そして数百万ポンドの価値がある事業を維持している。
4.ある出版社はコールセンターで使う台本に4つのささいな言葉をつけ加えた――そして売り上げへの転換率を2倍にした。
5.あるファストフード店は商品の売り上げを伸ばした。なんと商品の価格を……上げたことによって。
ここにあげた途方もない成功例は、経済学者にとってはなんとも非論理的なものばかりだったが、このすべてがうまくいった。そして、1番目の例以外は私が所属する広告会社であるオグルヴィのある部署によって生み出された方法だ。問題に対する直感と相容れない解決策を探すために、私が設立した部署である。
問題というものには、一見不合理な解決策がほぼつねにひそんでいるのに、誰もそれを探そうとしないことにわれわれは気づいた。誰もがほかの解決策を探そうとしてロジックに心を奪われすぎているのだ。
また腹立たしいことに、この方法で成功しても、リピート客を確保できないことにも気づいた。そんな魔法のような解決策を追求する予算の要求は企業にとって容易でないし、政府にはなおさら困難なのだ。ビジネスの事例はロジカルに見えなければならないからである。
確かに、議論に勝つためにロジックを用いるのが普通は最善の方法だが、人生で成功したければ、ロジックが必ずしも有益とは限らない。
起業家に「変わり者」が多い理由
起業家が非常に貴重なのは、会議の出席者にとって意味が通ることばかりやるわけではないからだ。興味深いことに、スティーブ・ジョブズやジェームズ・ダイソン、イーロン・マスク、ピーター・ティールのような人たちは正真正銘の変わり者に見える場合が多い。
ヘンリー・フォードが会計士を軽蔑していた話は有名だ――彼が支配権を握っていた間、フォード・モーター・カンパニーは一度も監査を受けなかった。
ロジックを求めるとき、目に見えない対価を払うことになる。魔法が壊れてしまうのだ。そして経済学者や技術官僚(テクノクラート)やマネジャーやアナリストやスプレッドシートオタクやアルゴリズムデザイナーが過剰に供給されている現代の世界では、魔法の使用が次第に難しくなっている――というより、魔法を試すことすら困難だろう。
私はこれからみなさんに、人生には魔法の余地があるべきだということを思い出させたい――心の中にいる錬金術師を発見するにはまだ手遅れではないのだ。
(翻訳:金井真弓)
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