高級菓子「たねや」が存亡危機を切り抜けた訳 コロナを革新と捉えた老舗の大胆な発想転換

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狩野 史長(以下、狩野):その頃、売りたくても売れなかったお菓子を病院や老人ホーム、幼稚園に寄付されたと聞きました。

山本:私どもの会社は、昔から地元の方々のおかげで今日があります。お世話になった方々、医療従事者の方々などに、私たちが今できることは、お菓子を食べてもらうことだと考え寄付を始めました。

たねやグループの山本昌仁CEO(写真:NHK大阪拠点放送局)

そのことでお客様からお礼の手紙や電話をいただきました。気持ちが沈んでいたときだったのでとても勇気づけられるとともに、お菓子には苦しいときも人を笑顔にできる力があるという、お菓子屋の原点を忘れていたことに気がつきました。

今までブランドを追求するあまり、手が届きにくい販売方法をとっていたことを改めようと考え始めると、体がとても楽になりました。

スーパー、コンビニ、ドライブスルー販売も開始

三神:それまでは百貨店が主な販路でした。

山本:会社の存続の危機で、社員は不安を抱えていました。スタッフは絶対に私たちが守ると宣言しましたが、片一方では売り上げはゼロです。これはもう、販路を広げて売っていくという選択肢以外考えられませんでした。

全スタッフで感染対策を徹底した販売方法を考えた結果、工場の人たちがお店や工場の駐車場で、ドライブスルー方式で販売することを提案し、実現させました。緊急事態だからこそ、できる限り早期にお客さまにお菓子を届けられる方法であると考え、スーパーやコンビニエンスストアでも販売を始めました。

ドライブスルー方式での販売も採り入れた(写真:NHK大阪拠点放送局)

食品業界や通販業界、宅配業界などあらゆるところに声をかけたところ、すべての方々が私たちに協力してくださいました。

三神:そもそも、なぜ今まで百貨店にこだわって販売していたのでしょうか?

山本:滋賀県にある本店以外で、われわれのお菓子の販売を最初に始めたのが、地元のデパートと東京のデパートです。われわれを育ててくれました。このご縁は大事にしていきたいという気持ちから、百貨店での販売を徹底していました。

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