ワクチン開発のカギ「病原体」を手に入れる裏側

どこかが独り占めしたらどういうことになるか

感染症危機管理の世界における急所とは、ワクチン開発のもととなる病原体の入手です。どこかの国が病原体を独占しようとしたら、どういうことになってしまうのでしょうか(写真:ロイター/アフロ)

21世紀に入り、テクノロジーをめぐる争いが激化している。米中貿易戦争に象徴されるように、国家が地政学的な目的のためにテクノロジーをはじめとする経済的要素を武器として使う状態がより顕著になり、経済安全保障が、伝統的な国家安全保障と同じように重要となる地経学の時代に入ったとも言われている。

米中覇権競争の主戦場は、半導体だ。半導体がなければ、スマホもパソコンも自動車も電車も動かない。『地経学とは何か』を記した船橋洋一氏は、「人工知能(AI)の裏の半導体、半導体の裏のプレシジョン機器、その裏の機微マテリアル、さらにはその裏のケミカルとさかのぼり、相手のチョークポイント、つまり急所を抉る地経学の攻防が始まっている」と述べている。

感染症危機管理の「急所」は病原体入手

テクノロジー覇権のチョークポイントとしてアメリカや中国が半導体に狙いを定める一方、感染症危機管理の世界でもチョークポイントをめぐって、先進国と途上国の攻防が繰り広げられてきた。

感染症危機管理のチョークポイントとは、病原体(細菌やウイルス)の入手である。感染症危機管理におけるあらゆる活動の最上流に位置するのが、病原体の存在だからだ。

感染症危機管理では、自然発生的であれ人為的であれ、Disease Xが発生した場合、その原因となる病原体を取得のうえ、ワクチンや治療薬といった危機管理医薬品をいかに迅速に開発するかが、その後の未来を左右する。

しかし、2006年、特定の国がこのチョークポイントを締めにかかる事態が発生した。インドネシアが、H5N1鳥インフルエンザウイルスの国際社会への共有を拒否したのだ。

1997年、それまで鳥類をはじめとする動物界に限局していたH5N1鳥インフルエンザのヒトへの感染が、香港で初めて確認された。その後、アジア各国に拡散し、2005年にはインドネシアでもヒトへの感染が確認され、死者が出ていた。

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