当初、インドネシアは国際社会に対してワクチン開発のもととなるウイルス株を共有していた。しかし、それをもとに先進国企業が作成する危機管理医薬品へのアクセスができなかった。この事態を受け、2006年12月、当時のインドネシア保健相は、自国原産のウイルスに対する「ウイルス主権(Viral Sovereignty)」を主張し、ウイルス株共有の拒否を宣言。国際社会に衝撃が走った。
焦った各国は、世界保健機関(WHO)の仲介で交渉を開始。インドネシアがH5N1鳥インフルエンザウイルス株の共有を再開する代わりに、2007年5月のWHO総会で、国際社会へのウイルス株共有とワクチンへの公平なアクセスを保証するための枠組みを創設する交渉の開始が決議された。
4年の交渉の末に創設されたのが、パンデミックインフルエンザ事前対策枠組み(PIPフレームワーク)である。WHOが管理・運用するPIPフレームワークは、①リスク評価およびワクチン開発のために、すべての国が脅威となりうるウイルスを供与すること、②すべての国に対してパンデミックインフルエンザワクチンへの公平なアクセスが保証されること――を目的としている。
季節性インフレンザの監視はどう行われているか
以来、新型インフルエンザウイルスの取得や、それらを用いたワクチンの製造は、すべてPIPフレームワークのルールの中で行われている(季節性インフルエンザウイルスや、ほかの病原体は対象外)。
季節性インフルエンザを含め、世界中のインフルエンザの流行状況の監視は、Global Influenza Surveillance & Response System(GISRS)というWHO管理下の国際監視ネットワークが行っている。GISRSに参加する世界各国の専門機関が分離したウイルス株は、日本やアメリカなど合計6つのWHOインフルエンザ協力センター(日本は国立感染症研究所)に集約され、流行状況が評価される。
季節性インフルエンザウイルスは変異と流行を繰り返す特徴があるため、WHOインフルエンザ協力センターが毎年一堂に会して選定会議を開催し、ワクチンとして使用するべきウイルス株を科学的な観点で推奨、各国で最終決定している。
PIPフレームワークも、ウイルス株の共有についてはGISRSの枠組みを介して行う。しかし、季節性インフルエンザとは異なり、企業が新型インフルエンザワクチン開発のためにウイルス株を入手するためには、PIPフレームワークへの加入が必須であり、金銭的および、物的貢献が要求される。
まず、企業は、加入にあたり年会費をWHOに支払う。そのうえで、加入企業は、GISRSの枠組みで分離されたウイルス株をWHOインフルエンザ協力センターから提供してもらうことにより、初めてワクチン開発が可能となる。
企業は、ウイルス株提供を受ける際に、WHOと契約書を交わす。この契約事項には、企業が生産するワクチンまたは抗ウイルス薬の一定量をWHOに寄付、または安価で提供することが含まれる。これらの危機管理医薬品は、購入余力のない途上国向けに分配される。
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