SBホークスが「ファン目線の発信」に成功した訳 “ホークスと結婚した女"加藤和子の挑戦
自らもバスケットボール部でプレーしていたアスリートは、スポーツの興奮と感動を伝える仕事に魅了されたという。キャスターを務めた後も、球団が発行する月刊誌『月刊ホークス』のインタビュアーとして「現場に呼んでもらって、球場に行ったりしていたんです」。
球団側は、コンテンツの発信を強化しようとしていた。映像部門にも力を入れていこうとしていた中で、キャスターとしてインタビュー経験も豊富な加藤に白羽の矢が立った。
「不安8割、楽しみ2割でした」
「外から見ていた頃から、選手たちの頑張りとか、そういうところをもっと伝えられたらなと、最初はそういう思いが強かったんです。そこは、今も変わりませんけどね」
加藤は“メディアの制約”を感じていた。インタビューを収録する。話が弾んで、予定よりも長くなる。しかし、番組の尺の関係で編集されてしまう。そうしたもどかしさが募っていた。
伝え切れていない部分を、もっと伝えていきたい。そのためには“中”から、より選手に近い立場から発信していきたい。メディアの仕組みや内情がわかってきたからこそ、その衝動が抑えられなくなる。それでも、プロ野球はやはり男社会。2000年代序盤では、まだまだ女性職員の存在すらも珍しかった。
「正直、その中に入っていくというのは、不安8割、楽しみ2割でした」
加藤が任された「映像」を活用した発信にも前例がなければ、プロ野球球団に女性スタッフが入って、その女性が発信するという、過去のお手本すらもなかったのだ。
「女性というところで、現場に入っていくのは、そうとう周りからも『女の子だから』という見方はあったし、私もどこか、女性だからここには入れないとか、ここまでしかダメだろうとか、自分でもそうやって線を引いていました。やっぱり男社会に入っていくって、すごい勇気もいりますし、大変ですね、ホントに、これは」
カメラを持って、ベンチ裏に行く。選手のくつろいだ姿を写真に収め、それをHPで紹介する。
しかし、ロッカーやベンチ裏は、選手のリラックスエリアでもある。汗だらけのアンダーシャツを脱ぎ、上半身裸でうろつく大男たちが、ぞろぞろいる。時には、シャワー室へ向かうために、バスタオルだけを腰に巻いた選手だっている。そこに、若い女性がいる。選手だって、気を遣う。
「結構、年上の選手も多かったから『なんでいるんだ?』という雰囲気なんかを、自分でも感じていました。周りも気を遣いますよね。幸いだったのが、私も運動部出身だったので、大学の体育館とかトレーニング場とか、一歩歩けば、半裸の男の人がいたりとか、そういうのは結構あるので……。それで慣れている、というわけじゃないですけど、やっぱり抵抗を感じるわけじゃないですか」
球団のスタッフが、情報を発信する。オフショットの姿を伝える。そういうコンセプトが、まだ広まっていない頃だ。加藤のやろうとしていることへの理解も薄ければ、選手の中に、女性がうろちょろしているということへの違和感は、年齢層の高いベテラン選手や、首脳陣のほうが大きかったようだ。
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