SBホークスが「ファン目線の発信」に成功した訳 “ホークスと結婚した女"加藤和子の挑戦

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加藤がハイタッチの映像を撮り始めたのは2011年(平成23年)ごろだったという。

「あまり表には出せないものだよな、とは思っていたんです。ただ、撮りだめてはいたんです」

これらを編集して、球団の公式ファンクラブ「クラブホークス」で、年末にプレゼントする「特典映像」としてDVDにまとめていたという。

そのプレミア感もさることながら、これが面白いという評判が立ち始めた。

「撮ってるけど、なんで出さないの?」

選手やチーム内からも、むしろ“公表”を後押しする声が出始めたのだ。

「せっかく勝った後の喜んでいるシーンとかが裏であるのに、なんかもったいないなと思って、その様子を撮っておこうかな、くらいの感じだったんです。自分がハイタッチに入るようになったときに、これ、ファン目線で、自分がハイタッチしている気分になったら、面白いよなと思いながら撮っていたんです」

ホークス名物「試合前の円陣」

こうした“舞台裏の映像”は、勝利後のハイタッチだけではない。ソフトバンクがスタートさせ、いまや他球団も追随しているのが、試合前の「円陣」の映像だ。ベテランの三塁手・松田宣浩。「マッチ」と呼ばれるムードメーカーが、音頭を取る。

「ご意見番(松田のこと)は、それをわかってやってくれているんです」

松田が、声を出す選手を指名する。その選手が、ひとネタ披露する。もちろん、試合前の大事な連絡事項や戦略に関する話もある。それが円陣の役割だ。

「その辺は全部、切って届けるんですけどね。届けちゃいけないところの部分は撮っていないですしね」

加藤と選手たちの間に、そうした暗黙の了解がある。だから、ここからはネタですよといわんばかりに、選手たちも思い切りはじけてくれるのだ。

「とくにマッチはですね、円陣だけじゃなくて、何かしらひとネタ、カメラを撮っていたらやってくれようとしますね。(川島)慶三さんもそうですけど、若い選手だけじゃなくて、そっちのベテランたちも、そうやってくれる。非常に助かっています」

松田と川島は、同じ1983年(昭和58年)生まれ。20代後半から30代前半のプレーヤーがレギュラーの中心となるこの世界で、彼らのような「ベテラン」が、先頭となってチームの空気を作り、そして積極的にファンサービスを行うのだ。

カメラの向こうで、ファンが見てくれている。

楽しさを、そして喜びを伝えたい。一緒に戦いましょう。僕らに力をください。

こうしたフレーズは、きれいごとに聞こえるかもしれない。しかし、選手たちとファンをつなぐ「メディア」の本義は、きっとそこにあるのだ。

「小久保(裕紀・現1軍ヘッドコーチ)さんが、いちばん声を出しながら練習していたということを、ムネ君(川﨑宗則・元マリナーズなど)が見ていて『俺も絶対にやんなきゃ』と声を出し始めて、それを見ていたマッチが声を出す。そういうホークスの“いい伝統”が受け継がれていったんだな、というのはありますね。この先、そういう選手が出てくるのかというところですけど、結構、今の子たちってドライだから『ああいう風にはなれないよね』って言っちゃいそうですけど」

加藤のような“伝える立場”からも、そういったチームの「強さの一端」を感じることがあるのだという。2020年(令和2年)、巨人を無傷の4連勝で破り、4年連続の日本一を達成した日本シリーズでも、MVPを獲得した24歳の栗原陵矢が、受賞インタビューのお立ち台で、ベンチからのリクエストに応え「元気百倍、アンパンマン!」の一発芸を披露する一幕があった。

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