SBホークスが「ファン目線の発信」に成功した訳

“ホークスと結婚した女"加藤和子の挑戦

「どうだ、頑張っているのか?」

当時の監督だった王貞治(現球団会長)は、そうした球団の新しい試みにも理解が深いほうだった。だから、加藤に事あるごとに、声をかけてくれたという。

それでも、やはり、こんな“雑音”が耳に入ってくる。

「こんなところにも入るの?」「これも撮るの?」「なんでここに女の子がいるんだ?」

重圧、周囲の視線、そして前例のない自分の役割。

「ホント、何でしょうね。最初、気を遣いすぎたのか、正直、体を壊したんです。今でこそ笑えますけど、ストレスがたまっていたんだということを、体が教えてくれたんです」

頭皮に「帯状疱疹」ができたのだという。選手との距離感に悩み、自分の仕事に対する自信も揺らぎかねない状態だった。

しかし時代の流れは、少しずつ周囲の反応を変えていった。

「現場に入るようになって、5、6年経ったくらいですかね」

つまり、2010年代。ツイッターやYouTubeなどの「SNS」に、幼い頃からなじんでいる若い世代が、選手の間にも増えてきたのだ。そうすると、カメラを抱えた女性スタッフがそこにいる理由を説明しなくても、撮られる側がわかっているようになってきたのだ。

「だから、時間と時代だと思うんです。SNSが大流行というか、メインになってきた時代にとっては、そうやって『見られる』ことが当たり前というか、プロの世界は見られることが当たり前なんですけど、メディアが多くなってきて、そこへ目を向ける人も多くなってきて、試合だけじゃなく、選手も『見られているんだ』という意識が、もっと強くなってきたと思いますね」

視聴者が楽しみにする「ハイタッチ」

加藤が手探りの中で築いてきた“チーム内での位置づけ”が如実に表れるのが、試合後の球団公式ツイッターやYouTubeで流れる「ハイタッチ」の映像だろう。

勝利後、選手たちがベンチ裏に引き上げてくる。加藤は、ロッカーへ通じる入り口のところでカメラを構えて待っている。選手たちが、スタッフや選手たちとハイタッチを交わしていく。最後にカメラに向かって、ひじを当てていく。

そうすると、見ている側は「自分」にしてもらったように見えるのだ。カメラの位置は、加藤の視線とイコールだ。つまり、女性目線の高さでもあるのだ。

ちょっとだけ、見上げた感じが、妙にリアルだ。加藤の姿を見ると、試合後の緊張感が解けた選手たちの表情が、ふと緩んでいる。最初は、加藤と気の合うチームのストッパー・森唯斗が、ノリで始めたのだという。それがいつの間にかほかの選手にも伝染して、いまや監督の工藤公康も、コーチ陣も、デスパイネやグラシアルなどの外国人選手も、当たり前のように全員がカメラにタッチしていく。

「あの映像を楽しみにされている方が、結構多いみたいなんです」

チームとともに、勝利を喜ぶ。加藤の生み出すその「視線」に、女性ファンはとくに共感できるのだ。

次ページなぜハイタッチを撮り始めたのか?
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