成果を出せない「コマドリ」組織の残念な思考 成功率の低い「トップダウンのゼロベース改革」

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重要なのは、問題があるにもかかわらず、それをうまく回避している片隅の変人がいるという事実です。このような片隅の変人、すなわちPDを特定し、その行動特性を明らかにするのがPDアプローチと呼ばれるものです。これは「見えるはずなのに見えないもの」に気づくことがカギとなります。

そのためには、問題を顕在化させる構造に着目するのではなく、その構造を生み出す行動やメンタルモデル自体に焦点を当て、それをPD行動と比較することで違いを見出すことが求められます。構造自体を変革しようとするのがゼロベース改革です。それに対してPDアプローチは構造を生み出す原因に注目するのです。

コマドリとカササギ

ただし、PDの行動特性が明らかになったとしても、それを再びトップダウンで普及させようとすると失敗することになります。というのは、人間は強制されるとどうしても反発してしまう傾向があるからです。そうではなく、新たな行動が業績向上につながることが明らかになれば、自発的にそれを採用していくことになるでしょう。

この点で示唆的なのがコマドリとカササギの行動特性の違いです。コマドリは非常に縄張り意識が強く、比較的孤立して生息しています。その鳴き声は、主に自分の縄張りを主張しています。それとは対照的に、カササギは非常に社会的であり、そのために知性を活用します。

19世紀後半の英国では、酪農家は顧客の玄関前に置かれた容器にミルクを注いで配達していました。しかし、鳥がこのミルクを窃取するようになったため、容器に蓋が付けられました。それでも、少数の賢い鳥はくちばしでうまくつつくと蓋を突き通せることを発見したのです。

この方法はカササギの間では広く普及していきました。その結果、人間にとつては迷惑このうえないのですが、かれらは高タンパクのフリーランチを楽しむことができたのです。一方、コマドリはごく一部の鳥がカササギの行動を偶然見つけてそれを模倣しましたが、コマドリ全体に普及することはありませんでした。

PDの行動特性が発見されたとしても、コマドリのような集団ではそれが普及することはありません。それを普及させ組織改革につなげていくためには、カササギの叡智が必要です。

それは社会的な協調であり、それは決してトップダウンによる押し付けではありません。後者は面従腹背、儀礼的無視、儀式化というお決まりのルートをたどり、組織改革にはつながりません。そうではなく、より協調的なボトムアップ・アプローチをとるべきです。この点で私たちはカササギから学ぶことがまだまだ多く残されているのです。

原田 勉 神戸大学大学院経営学研究科教授

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はらだ つとむ / Tsutomu Harada

1967年京都府生まれ。スタンフォード大学Ph.D.(経済学博士号)、神戸大学博士(経営学)。神戸大学経営学部助教授、科学技術庁科学技術政策研究所客員研究官、INSEAD客員研究員、ハーバード大学フルブライト研究員を経て、2005年より現職。専攻は、経営戦略、イノベーション経済学、イノベーション・マネジメントなど。大学での研究・教育に加え、企業の研修プログラムの企画なども精力的に行っている。主な著書に、『OODA Management(ウーダ・マネジメント)』(東洋経済新報社)、『イノベーション戦略の論理』(中央公論新社)、『OODALOOP(ウーダ・ループ)』(翻訳、東洋経済新報社)などがある。

 

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