成果を出せない「コマドリ」組織の残念な思考 成功率の低い「トップダウンのゼロベース改革」

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この「見えるはずなのに見えないもの」が実は組織変革のカギとなります。組織変革といえば、歯切れのよい評論家やコンサルタントが主張するゼロベースでの抜本的改革のようなものをイメージされるかもしれません。倒産の危機に瀕した場合などの緊急事態では、このような改革が意味をもつこともあるでしょう。

しかし、この種の抜本的改革の多くは単に混乱を付け加えるだけであり、紆余曲折の結果、元の状態に戻すということが少なくありません。

ゼロベース改革は、その言葉から示唆されるように、トップダウンで実施されるものです。トップダウンの改革が機能するには少なくとも2つの条件が必要です。

1つはトップが組織変革に関する正解を持っているということ、そしてもう1つは直面している問題が技術的問題に限定されるということです。

この2つの条件は同じコインの両面であり、切り離すことができないものです。技術的問題とは、因果関係を特定することができ、問題の原因を取り除くことが可能なものです。

例えば、コロナウイルスに対し、ワクチンで抗体をつくることができれば、その感染を抑制することができます。これは因果関係が明確であり、解決の方向性も明確です。技術的問題だからこそ正解が存在するのです。

しかしながら、適応課題と呼ばれる人間の行動変容を要する問題の場合、事はそう簡単ではありません。そこには人間の感情が複雑に絡むことになるので、論理的、機械的に因果関係を特定し、原因を特定することはできません。要するに「あなたが原因だ」と指摘されて、それですぐに行動を改めるということはほとんど期待できないのです。

ゼロベース改革は、技術的問題であれば有効でしょう。しかし、行動変容を伴う複雑な社会的問題に直面している場合、それは適応課題であり、トップダウンのゼロベース改革の成功確率はきわめて低くなります。組織改革には必然的に多くの関係者の行動変容が必要とされるため、ゼロベースの抜本的改革は組織に混乱をもたらし、問題をさらに悪化させることになってしまうのです。

片隅の変人=ポジティブな逸脱者

では、この適応課題にはどのようなアプローチが有効なのでしょうか。前回の記事「SDGs時代に『戦略的思考』がオワコン化する理由」で解説したように、最悪のこの適応課題に対して、40カ国以上の国で適用され主にSDGsの領域で大きな成果をあげているのがポジティブデビアンス(Positive Deviance, PD)と呼ばれるものです。

PDとは簡単にいえば「片隅の変人」のことです。片隅というのは身近なところにいて、置かれた状況や才能、資質などの点でほかの人たちと何も変わるところがないという意味です。しかし、ある部分においては他者と異なるところがあり、ポジティブな方向に逸脱しています。つまり、いい意味での変人ということです。

この「片隅の変人」の行動に着目し、それを模倣することが組織やコミュニティの変革につながるのです。

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