成果を出せない「コマドリ」組織の残念な思考

成功率の低い「トップダウンのゼロベース改革」

例えば、かつてボリビアのケチュア族は子どもたちの成長障害という問題に直面していました。NGO(非営利団体)の保健専門家はそのコミュニティで食料消費調査を行い、各家庭はすべて同じものを子どもたちに食べさせているという結論を得ており、栄養状態を改善するように提言していました。

つまり、技術的問題としてとらえ、栄養状態改善という答えを出していたのです。しかし、このコミュニティは非常に貧しく、外部からの援助がなければ栄養状態を改善することは困難な状況にありました。

そこで、この問題を適応課題としてとらえてPDアプローチが適用されました。専門家たちは食習慣の問題ではなく純粋に栄養不足が原因であるからそれは時間とお金の無駄だと反対しました。しかし、貧しい家庭のなかで成長障害の子どもがいない家庭が何軒かあることが判明し、そのPD家庭をチームで訪問し、食事中やその前後を現場で観察することにしました。

すると、確かに食材や食事の量はほかの家庭とまったく変わらないことが明らかになりました。しかしながら、現地調査チームの1人がある重要な行動の違いに気がつきました。それはスープの注ぎ方の違いでした。通常の家庭では、子どもたちにスープを給仕するとき、釜の表面からスープをすくっていました。それに対し、これらのPD家庭であり、釜の底からスープをすくっていたのです。

これが重要な違いを生み出す違いでした。つまり、スープの食材は釜の底に沈んでいたのです。釜の表面しかすくわなければ、子どもたちは食材を食べることができません。ケチュア族では、この食材は労働に従事する大人たちが食べるものであるという暗黙の前提、メンタルモデルが支配的であり、それが当然だと思われていたのです。

しかし、PD家庭では、スープを釜の底からすくうことで子どもたちにも食材を提供していました。つまり、成長障害を解決するカギは、新たな栄養補給ではなく、いまある食事のなかでスープのすくい方を変えることにあったのです。

「見えるはずなのに見えないもの」に気づけない

この場合の「片隅の変人」とは、釜の底からスープをすくっていたPD家庭の母親たちです。このスープのすくい方を除けば、収入や食材、食事の量などはほかの家庭と何も変わりませんでした。そして、本人たちは自分たちが何か特別なことをしているという自覚もなかったのです。

このようにスープの注ぎ方の違いに着目することは、おそらく保健専門家や栄養士などの専門家には難しかったでしょう。かれらは栄養や衛生状態に着目するように訓練されており、それがかれらのメンタルモデルを形成していたからです。

かれらは、「見えるはずなのに見えないもの」に気づくことができず、大規模な栄養補助食の支援という技術的問題の解決策を提案しました。しかし、このような解決策は援助が行われている期間中は有効ですが、援助が打ち切られると再び問題が顕在化することになるのです。

次ページ構造を生み出す原因に注目するのが「PDアプローチ」
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