日米地位協定を放置する日本が抱える根本問題 バイデン政権の対日期待と現実のギャップ
日米首脳会談の報道に合わせ、日本経済新聞コメンテーターの秋田浩之氏は3月9日のツイートで、「ホワイトハウスは対中戦略を日本がどう考え、何をしてくれるのか、聞きたいと思っています。日本の考えと具体策をバイデン氏にインプットする好機に」とつぶやいた。外交史家の北岡伸一氏と森聡氏も『中央公論』4月号において、「敵基地攻撃能力」にかわる「反撃力」を提唱し、日本が対中ミサイルの開発と導入を積極的に進めていくべきだと主張している。
期待と現実の大きなギャップ
問題は、バイデン政権の期待と日本が実際にできることの間に大きなギャップがあるように思われることだ。オバマ政権からトランプ政権にかけて進められてきた、自衛隊の南西防衛や自衛隊基地の日米共同使用、島嶼(とうしょ)での日米共同演習で、すでに戦略と現実のさまざまなギャップが浮き彫りになっている。
南西防衛は、民主党政権下の2010年に改定された「防衛計画の大綱」(防衛大綱)で登場した。尖閣諸島をめぐる日中間の対立が高まったのを機に、「自衛隊配備の空白地域」である南西諸島への配備の必要性が打ち出され、2013年改定の防衛大綱に引き継がれる。そして、2016年3月から与那国島に約160名の陸自沿岸監視隊が駐屯。また、2016年10月から奄美大島に約550名、2020年4月から宮古島に約700名の陸自警備部隊・地対艦空誘導弾部隊が駐屯。その次が、石垣島に奄美・宮古と同じ陸自部隊約500〜600名を駐屯させる計画で、2019年3月から駐屯地の建設工事が始まっている。
南西防衛は、有事の住民保護の制度が整っていない問題をクローズアップさせた。国民保護法では、有事に国民を避難させるのは自衛隊ではなく自治体の役割となっている。だが、周囲を海に囲まれた小さな自治体にその能力や手段があるのか。危機管理学が専門の中林啓修氏の試算によれば、宮古・八重山諸島の住民と観光客などの滞在者を民間航空機・船舶で避難させるには、約3週間かかるという。平時ならまだしも、予測不能な有事において事前に約3週間もの余裕をもって民間人が避難することは可能なのか。
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