感染者の自殺率が上昇「猫の寄生虫」の怖い生態 人の脳を占拠、マインドコントロール状態に

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猫を宿主とする寄生虫がいます(写真:らい/PIXTA)
微生物が勢力を強めると宿主の命を奪いますが、それは自らの死も意味し、拡大できなくなってしまいます。宿主との共生を選んだ微生物は多く、私たちが自覚することはほとんどありませんが、さまざまな影響を与え合っています。
猫の寄生虫である「トキソプラズマ」に感染すると、人の行動が変わり、交通事故にあいやすくなったり、自殺率が高くなったりするというデータもあります。ジャーナリストの石 弘之氏の新著『図解 感染症の世界史』から一部抜粋・再構成し、人類と微生物の関係を解説します。
前回:感染症はなぜ広がる?人類悩ます「残念な真実」
前々回:新型コロナ「武漢より前に世界拡散」の衝撃事実

猫の寄生虫に感染すると反射神経が鈍くなる

もしもあなたが猫から寄生虫をうつされると、交通事故にあいやすくなったり、犯罪の道に走ったり、自殺したくなったりするかもしれません。

これはウソのようですが本当の話です。猫の寄生虫である「トキソプラズマ原虫」に感染すると、原虫に脳が占拠され、マインドコントロールのような状態になることがわかってきました。この原虫は、マラリア原虫の親戚筋にあたります。

トキソプラズマは、動物に寄生する単細胞の微生物、原虫の一種です。DNAを解析した結果、人の行動を左右するドーパミンの合成に関係する遺伝子が含まれていることがわかりました。

トキソプラズマによる奇妙な振る舞いに最初に気がついたのは、チェコの進化生物学者、ヤロスラフ・フレグル教授。自分が感染していることを知った直後から、不注意な行動が増え、反応時間が遅くなるなど不可解な現象が起き、原虫の感染によるものではないかとひらめいたのです。

「原虫の感染により人間の行動が変わる」という仮説を発表したところ、「UFO目撃」並みに扱われ、まったく相手にされなかったそうです。現在では、多くの研究者がこの仮説を信じ、関連の論文も多数発表されるようになりました。

感染すると反射神経が鈍くなるのと同時に、リスクを恐れなくなるため、交通事故にあう危険性が高まる、という調査もあります。新しいテーマは自殺との関係です。2012年の「精神臨床医学誌」に、トキソプラズマ感染者の自殺率は、非感染者の7倍になるというデータも発表されました。

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