日本の代議制民主主義はアップデートが必要か 待鳥聡史さんが語る「政治家に求められる役割」

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待鳥:多党制の仕組みだと、各政党は党内で価値観や意見の合う集団が高い密度で集まる方向には進みますが、分派や雑居性を許さず、党内で話し合い、原則や方針が変わることも好みません。ですが、これほど価値観が多様化し、人々が政治に対して求めることもバラバラになっている社会においては、個々人の関心や好みと政党のアジェンダを完全に一致させることは不可能でしょう。

どの有権者にとっても、ある政党をすべての面で支持するということは、もはや想定できないのです。すべての面で支持してもらうには、政党の数を増やして細分化するしかなく、多党制はそれを相当程度まで許容するわけですが、どれだけ政党を増やせば誰もが満足いくのかはわかりません。そして、一致しなくてはならない範囲が広がれば広がるほど、妥協が難しくなります。その結果が、文化的に譲れない争点を前面に押し出すアイデンティティー政治の隆盛や、他者を排除しようとするポピュリズム政党の乱立といった帰結です。

だからこそ、二党制のように党内分派や意見対立が不可避の組織の中で、意見が異なる人同士が議論することの価値は見直されるべきです。親しい人、意見の合う人と強くつながるためではなく、政党の中で議論し、多様性の中から1つの結論を導き出していく重要性を考えていく必要があります。そのような幅広い議論を機動的に積み上げいくためには、党内論争が起こりやすく、新しい技術的な挑戦も容易な、二党制の仕組みを再評価すべきだと考えています。

須賀:「NHKから国民を守る党(以下:N国党)」は、NHKにまつわるたった1つのイシューを前面に押し出して政党と名乗り、イデオロギーを問わずに支持者を集めました。一方で、N国党をめぐる一連の流れは、社会全体でイデオロギーよりもイシューのほうが前傾下しており、多くの人がイシューにはコミットできるが、イデオロギーやイシューを束ねるより広い思想については理解できない、コミットできなくなっていることでもあると思います。こういった状況においても、政党が抱える困難が現れているようにも感じますが、どのようにお考えになりますか?

(撮影:倉科直弘 Naohiro Kurashina)

意見の多様性を前提にしつつ意思決定を

待鳥:おっしゃるとおり、N国党は単一争点に限定された主張を行い、それがどのような社会全体の理念と結びついているのかも理解困難な政党です。ただ、単一争点政党にはつねに似た傾向があります。そこに見え隠れするのは、仲のいい人、もともとわかり合える人とだけ結びつく、趣味などの団体に近い性格といえるかもしれません。

これからの政党が果たすべき役割は、それとは正反対です。例えば、社会経済的弱者のために活動しようと思っている集団があったとしても、社会的な弱者や文化的少数派に着目しているのか、経済的な弱者に着目しているのかによって、それぞれの議論のウェートの置き方や政策の優先順位は異なり、同じグループだと思っていても、意見の異なる人が実はたくさんいることに気がつきます。それぞれの主張の根拠も異なるでしょう。政治にとって重要なのは、意見の多様性を前提にしつつ、それぞれの違いを乗り越えて意思決定する努力です。

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