日本全国、総「サザエさん化」現象を考える
つい、磯野家の誰かに自分を重ねる不思議

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アニメーションの「サザエさん」は、長谷川町子先生のオリジナル漫画作品を原作としたものであり、テーマも内容もテレビ局側が決めたものではありません。しかし、アニメが45年も続いた成功の背景には、「変えない」という戦略を貫いたことが大きいと思います。

舞台も昭和のまま、家族構成も変わりません。サザエさんが、2人目の子どもを産むということなど、後にも先にもないでしょう。放送時間帯もそのままですし、1本7分弱というフォーマットもそのまま。主題歌も変わりません。この変わらないところが、視聴者から絶対的な安心感を持たれ、「日曜になると視聴したくなる番組」となっています。

米国には「サザエさん」は存在しえない!

ちなみに、「サザエさん」の高視聴率は、ハリウッドの人たちにはまったく理解されませんでした。アメリカのテレビ局にいた頃、「このアニメが何で20%も視聴率を取っているの?」とよく聞かれたので、「何十年も放送されている日本人の家族愛の物語だから」と答えていましたが、「どこが面白いのかさっぱりわからない」と言われました。

アメリカでアニメといえば、大人向け、子ども向け、ときっちり視聴者層を分けて制作され、老若男女から支持されるアニメなど見たことがありません。アメリカには「ファミリー・ガイ」(FOX)という大人向けの家族ドラマがありますが、「サザエさん」とはまったく逆の世界。人種差別や性的差別など、ブラックジョークが多く、子どもは不良だし、精神病院も出てくる。筆者が見ても、ただただ殺伐な気分になるだけで、何が面白いのかさっぱりわかりませんでした。

家族愛は主に未就学児童向けのアニメで描かれますが、主人公がクマさんだったり、ひつじさんだったりしますので、大人が見て到底面白いものではありません。

アメリカには、「アメリカズ・ファニエスト・ホームビデオ」(ABC、『さんまのSUPERからくりTV』(TBS系)のような視聴者投稿番組)のようなほっこりした番組もありますが、基本的に視聴者を癒やしてくれるような番組はありません。やたらと刺激的な映像の連続で、この人たちは何を見て癒やされるのだろう、とたまに不思議に思うこともあります。

世界的に見ても、「サザエさん」は日本が生んだ奇跡の番組であり、平和の象徴でもあります。「サザエさん」が放送されている国に生まれてよかったと、あらためて思った次第です。毎週日曜日、サザエさんとじゃんけんができるのは、何とも幸せなことですね。

佐藤 智恵 作家・コンサルタント 

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さとう ちえ / Chie Sato

1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして報道番組、音楽番組を制作。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。主な著書に『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、『スタンフォードでいちばん人気の授業』(幻冬舎)、『ハーバード日本史教室』(中公新書ラクレ)、『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)、最新刊は『コロナ後―ハーバード知日派10人が語る未来―』(新潮新書)。公式ウェブサイト

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