「アキレス腱」語源の英雄が絶命した悲しき理由 足首以外は不死身だったトロイア戦争の立役者
さて、叙事詩の描くトロイア戦争の様子を見てみよう。トロイアの戦争の原因となったのは、トロイアのパリス王子がギリシャはスパルタ王メネラオスの妃である絶世の美女ヘレネを奪ったことである。
メネラオスはすぐさまギリシャ各地のボスたちを糾合した。そんなことのためにギリシャじゅうの男たちが「十字軍」よろしく遠征に繰り出したというのはいかにもありえなそうに思える。
だが、家父長制下の婚姻の倫理を破壊したパリスの行動や、もしかして好んでパリスのもとに走ったのかもしれないヘレネの行動は、古代人にとってはじゅうぶん「十字軍」的懲罰に値するものだったと言われる(現代人にとっては、人妻を奪ったの奪われたのというのはずいぶんロマンチックなお話に思えてしまうけれども)。
トロイア戦争は長々と続いた。トロイア市の城外にギリシャ軍たちは10年も陣取って、あの手この手で攻めた。ギリシャ軍の間に疫病が流行ることもあった。奇妙なことに、疫病を流行らせたのはアポロン神である。ギリシャといえばアポロン、アポロンといえばギリシャだというのに、なぜだかアポロンはトロイア方の守護者なのであった。
不死身になるはずだったアキレウス
トロイア戦争の1番の立役者は、英雄アキレウス(アキレス)である。彼はペレウスという人間の王とテティスという海の女神様の間に生まれた。ケンタウロスのケイロンが彼の教育係を務めている。母親の女神様は幼いアキレウスの踵(かかと)をつかんで、冥界の川ステュクス(日本の三途の川のようなもの)に逆さまに浸した。
これで少年は不死身になるはずだったのだが、女神様は踵にまで水を沁(しみ)渡らせなかったので、アキレウス改造計画は未完成に終わった。踵だけが弱点として残ったのだ。いわゆる「アキレス腱」である。
弱点が残っていたとはいえ、神様の血を引いているだけあってアキレウスの戦闘能力と豪胆さは息を呑むばかりであった。だからギリシャ勢はすぐにも勝てそうに思われたのだが、トロイア人が籠城を決め込んだので戦況は膠着状態となった。
そんなある日、ギリシャ軍の総大将アガメムノン(メネラオスの兄)が、アキレウスが囲っていた捕虜の女を奪ってしまう。これでヘソを曲げたアキレウスが自分のテントに引き籠もる。これを転機にトロイア勢が巻き返し、ギリシャ軍は苦境に陥る。
アキレウスの親友パトロクロスがアキレウスの武具を身につけて出陣したが、トロイア軍の総大将ヘクトル(パリスの兄)に殺される。親友の死の知らせに激しく怒ったアキレウスは戦場に戻り、鬼と化して攻めまくり、ついにヘクトルをやっつける。彼はヘクトルの遺骸を戦車につないでトロイアの城壁のまわりをぐるぐる回る。この神をも畏れぬ禍々しい行為に、誰もがショックを受けた。
その後もいろいろあるのだが、最終的にアキレウスはパリスの放った矢を踵に受け、あっけなく死ぬ。命運が尽きていたのだ。
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