ジャーナリストには孤独に耐える力が必要だ 山折哲雄×滝鼻卓雄(その3)

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孤独に耐えられる記者かどうか

滝鼻:ここで、特定秘密保護法の話をすると、最近、私はある後輩の記者に「特定保護法は成立したけれども、こんな法律クソ食らえだ」と言いました。少々下品な言い方ですが……。

確かに、守るべき秘密、事項はありますし、それは新聞記者といえども守ると思います。新聞記者は知っていても書かない場合もありますから。たとえば私が取材をして、防衛、外交、テロリズムの防止に関する秘密を知ったとします。それを国民の共同利益のために秘密にしておいたほうがいいと思ったら、私は書かないはずです。逆に、これは書いたほうが国民共通の利益になるのであれば書きます。ただその場合、形式的には、特定秘密保護法を犯すことになるので、おそらく起訴されるでしょう。しかし、記者が書くべきことを書いた場合、組織は守ってくれるはずです。

数年前、私が読売新聞の社長だった時代に、新聞大会のシンポジウムで秘密保護について話し合いました。その際、「もし読売の記者が書くべきことを書いて、それが法律に触れて起訴されて、有罪判決を受けたとしても、その記者を懲戒免職にはしません。出所するまで待っています」と話したのです。そしたら、そこに集まった全国の新聞社のトップから異論は出ませんでした。ですから、せっかくこんな法律を作った安倍首相には申し訳ないですが、特定秘密保護法があろうとなかろうと、孤独に耐えられる記者には、あまり関係がないと思うのです。

私は、新聞記者やジャーナリストは孤独に耐える力を持つべきだと思っています。孤独の力はなかなか理解されないかもしれないですが、もうちょっとわかりやすい言葉で言えば、競争力や精神力です。そして、周囲の目を気にしない力。周囲の目を克服することが、孤独に耐える力につながると思います。

日本の社会には、触れてはいけないタブーがあります。被差別部落の問題、在日朝鮮人の問題、皇室の問題もそうかもしれません。自分で自分のタブーを作ってしまうところがあります。こうしたテーマは、組織として考えると、「お前、危ないからやめておけよ」ということになりがちです。しかし、そうではなくて、自分の覚悟を持って、孤独でも戦うということが、職業ジャーナリストとして必要な要素ではないでしょうか。

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