ジャーナリストには孤独に耐える力が必要だ 山折哲雄×滝鼻卓雄(その3)

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なぜヤクザ性を重んじるのか

山折:その話には共感します。私は、20年ぐらい前に還暦を迎えた頃、「人間を評価する基準とはなんだろうか、自分の場合は何を基準にすべきだろうか」を、友人と討論して考えたことがあります。私が最終的に行き着いた基準は、3つです。

1番目は、知性です。知性は人間の土台ですから。2番目は含羞です。この言葉はもう死語になりましたかな? 

滝鼻:まだ生きていますよ。

山折:3番目が、ヤクザ性。わたしはこれをあえて出したんですよ。何事かをする人間には、知性がなくてはならないですし、含羞の心がどうしても必要になります。慎み深さや思いやりといった要素が、知性を生かすためにも極めて重要です。

しかし同時に、冒険心もいります。ただ、私はあえて、冒険とは言わず、ヤクザ性と言っています。このヤクザ性の本質とは、場合によっては、法を犯してでも常識や世間を突き上げる力です。それには覚悟や決断が必要となるので、ヤクザ性と言っています。

そのとき以来、わたしが人間を評価する要素はこの3つで変わりありません。問題は、その3つの価値基準をどう配分するかです。たとえば、100点満点にした場合、知性を50にして、含羞を20、ヤクザ性は30にするなどいろんなバラエティがありえます。

当初私は、知性が50ぐらいで、含羞とヤクザ性が20、30ぐらいだと感じていました。ただ、年を取るにしたがって、「知性は30、場合によっては20でもいい。大事なのは含羞。これを中心にしてヤクザ性を最大限プラスしよう」という考えになってきました。今は、知性30、含羞40、ヤクザ性30ぐらいのバランスです。

いざというときに、俺は法を犯すかもしれない。人間という存在は、場合によっては、法を犯すこともありうる。それを自分の行動に対しても、受け入れよう。そう考えるようになりました。これは、滝鼻さんの先ほどのお話とちょっと触れ合うかもしれません。

滝鼻:そうですね。

山折:もうひとつは、人間に対してであれ、事件に対してであれ、社会的なさまざまな思想を批評する場合であれ、正邪善悪の基準で評価することをやめようと。正邪善悪でものを考えたり結論を出したり、議論したりした場合に、ずいぶん俺は間違ってきたなと。正邪というのは、時代や人によって変わります。

滝鼻:そのとおりです。基準は動きますよね。

山折:私の過去20、30年を振り返ると、正邪善悪のつもりで判断して行動してきたことの半分以上が誤っています。そういう反省の上に立って、ならばさまざまな問題を評価するときに、何を基準にしたらいいのか。私が最後にたどり着いた結論は、義理と人情です。私の場合、義理と人情で事を判断し、評価したときには、ほとんど誤ったことはありません。

義理人情という言葉自体は、あまりにも近代的な観念や、慣習によって汚染されています。ですから言葉を言い換えて、義と情、と言っています。今の私にとっては、義と情こそが、すべてのことを判断する最大の基準です。

滝鼻:どんなことがあってもですね。

山折:それはお縄をちょうだいしても、下獄してもです。そういうことがないことを祈りますけれども、そのなったら仕方がない。だからその点で、先ほど滝鼻さんが言われたことと、まったく同じ方向を向いていると思った次第です。

滝鼻:義と情は、時に法の支配と触れるところがあります。人はよく、「悪法も法なり」と言いますが、悪法はやっぱり悪法です。

たとえば最近、最高裁の第3小法廷が、性同一性障害のため女性から男性に性別を変更した妻と夫の間に、生殖治療で生まれた子供を親子とみなす判断を出しました。読売新聞の社説は、この判断に対し疑問を投げかけていましたが、それ以外の新聞の多くは、立法を急ぐべきだという立場でした。最高裁が今回の決定を出さなければ、この問題はずっと解決せず続いていたかもしれません。

やはり、悪法は変えていかないといけません。ジャーナリズムの中でも、法に触れそうな報道や取材は過去もありましたし、これからも有りえます。それが私の言う「塀の上を歩かないと、いいネタは見つからない」ということです。それに踏み切るときに、山折さんはヤクザ性という言葉を使われましたが、ある覚悟をもって内側に飛び降りることが必要です。それをできるのが、職業としての記者、あるいはジャーナリストだと私は思っています。

(撮影:梅谷秀司)

山折 哲雄 こころを育む総合フォーラム座長
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