テレビの「飲食企業推し」が目に余る切実な訳 まるで「宣伝番組」と化したバラエティの苦境

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ただ、上記に挙げた番組が「狙い通りに10~40代(ファミリー層)の個人視聴率を獲れているか」と言えば微妙。もともと飲食企業の企画は、平日の日中や週末に放送される情報番組でも連日放送されていて、テレビをよく見ている人ほど「朝から夜まで飲食のネタばかり」という印象があるものです。もしこのまま民放3局が「右にならえ」の姿勢で飲食企業の企画を続けたら、近いうちに視聴者から飽きられかねません。

また、バラエティにおける飲食企業の企画は、「広告収入減を食い止めるための既存スポンサー接待」。あるいは、「スポンサー再開拓の意味合いもある」という話もよく聞きます。つまり、飲食企業の企画はビジネス戦略上でも重要なものですが、これほど頻繁に扱ってしまうと、かえって出稿は増えず、広告効果も薄れてしまうのが難しいところ。3局は各番組の制作だけでなく、これまで以上に編成や営業との連携を深めて戦略を練り直したほうがいいでしょう。

本当に飲食企業の企画をやりたいのか

制作現場の人々としても、「本当に飲食企業の企画をやりたいか?」と聞かれたら素直にうなずけないのではないでしょうか。「ロケが思うようにできない」「会社から『ファミリー層を狙え』と言われるから」「営業をサポートするために」「ステイホームの時期だから」。特にバラエティがやりたくてテレビ業界に入った人ほど、今はこれらのエクスキューズをもとに飲食企業の企画を選んでいるだけでしょう。

そういう人が今後も初志を忘れ、飲食企業の企画を続けていたらテレビ業界の未来は暗いと言わざるをえません。もともと「バラエティ」は、さまざまな企画を楽しめるジャンルであり、ひいてはテレビ最大の武器であったはずの多様性を確保するためにも、現在のような過剰供給は望ましくないでしょう。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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