「文化の国」であることを誇りにしているフランスに大きな異変が起きています。フランスは、新型コロナウイルスによるパンデミックの最中、生活と社会における「文化的な部分」を完全に停止(あるいは放棄)してしまったのです。多くのフランス人と同じように、私も自国の文化および文明の基礎に何が起きているのか、いまだに理解できずにいます。
すでにイタリアやスペインでは美術館が営業を開始しています。日本では昨春の緊急事態宣言時こそ閉まっていましたが、その後は多くが営業をしています。一方、フランスでは昨年10月以降、美術館や劇場、映画館、オペラ劇場、コンサートホール、そしてすべての記念建造物(エッフェル塔やベルサイユ宮殿、城など)は閉鎖されたままです。
美術館や劇場は「閉鎖」したまま
文化と美術の国として、美が重要視され、芸術家が高く評価されているこのフランスにおいて、なぜエマニュエル・マクロン大統領や、彼の政権は文化を完全に「軽視」するようになってしまったのでしょうか。
これまでも多くのところで言及してきましたが、フランスには日本の文化庁の10倍もの予算を持つ文化省があります。文化はフランスの歴代の政治家によって、創造産業としてだけではなく、主要な経済主体として国の重要な一部と扱われてきました。1959年に文化省(当時は文化通信省)を設立した、シャルル・ドゴール大統領(当時)は、1965年「文化はすべてを支配し、われわれの文明の必須条件である」と話しています。
ところが、10月末から12月半ばまで続いた二度目のロックダウン中は、こうした施設の営業再開がいつになるかの見通しは示されませんでした。多くの人は、クリスマス休暇に合わせて12月15日に営業が再開すると期待していましたが、それも実現しませんでした。夜間外出禁止であれば、せめて日中だけでもという声もありましたが、それもなし。制限付きの営業再開すら許されていないのです。
クリスマス前には、フランス国民がクリスマスショッピングできるように、小売店は営業することが許されました。画廊や図書館、教会は開いています。それなのになぜ、ルーブル美術館はいつまで経っても閉館しているのでしょうか(ちなみに、美術品を維持するために、美術館は閉館中も空調管理やセキュリティ対策が必要で、これには毎月1000万ユーロかかります)。
こうした中、美術館の営業再開への嘆願や圧力が高まりつつあります。映画館やレストランへ行ってストレスを発散できなくなったフランス国民は意気消沈し始めており、この傾向は文化および行楽施設が数多くあるパリで特に顕著です。美術館に行くことは、フランス人にとってストレス解消や現実逃避、そして夢想することなのです。今のような状態では特にこうした場所を必要としています。
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