武田のがん治療薬「出荷停止」が映す大きな難題 安全な薬を安定的に供給するために必要なこと
しかも、今回のリュープロレリンはエッセンシャルメディスンである。社会的責任に照らし合わせて考えれば、決して切らしてはいけない医薬品だ。確かに市場経済の中で、特定の薬剤を特定の会社のみが販売する状態に陥ることはやむをえない面もあるものの、エッセンシャルメディスンについては、より安定して供給が行われるような体制の構築が必要である。
解決策の1つとして、エッセンシャルメディスンだけに関しては、当局が市場の状況を十分に把握したうえで、何らかの調整を図れるようなシステムを構築していくことが必要かもしれない。それには、今後の薬事承認・薬価算定などについての再考も含まれる。一般的にエッセンシャルメディスンは安価である。そのために、製薬企業からすると、利潤の出る薬ではない。安定供給体制を確保するためには、薬価算定時に政府として、エッセンシャルメディスンを下支えするような価格設定をすることも必要ではないかと考える。
さらにもう一歩踏み込めば、仮にエッセンシャルメディスンが国内製薬企業から供給ができなくなった場合、その対応策を十分準備しておく必要があるだろう。例えば、海外から安価で同じ効能効果をもつ薬剤を緊急輸入し、国内で迅速承認して、販売供給できるような体制作りをしておくことも重要な対策の1つと考えられる。
GMPの統一化・標準化が必要
2つ目に考えたいことは、GMPの統一化・標準化である。昨今の医薬品の製造・販売は、一国で完結することは少なく、そのサプライチェーンはますます伸展し、グローバル化が進んでいる。医薬品製造工場に対する海外からのGMP査察の機会も増加している。そのために、国内の規制・基準だけでは対応できなく、輸出先国のそれにも対応していくことが求められている。
一方で、その国ごとにGMPの要件を確認し、それに適合させていくことは非常に煩雑であり、非効率的である。それを改善していくためにも、医薬品GMPの指針を作成し、国際整合性を図りながら、当局間の相互査察が進むような体制作りが必要である。
その枠組みの1つとして1995年に医薬品査察協定および医薬品査察協同スキーム(PIC/S)が設立された。2021年1月現在53カ国(当局)が加盟している。日本は2014年に加盟した。しかし、PIC/Sには法的効力や罰則がない。査察当局間の非公式な協力のみである。今回の事案でわかったことは、日本のGMP基準は、FDAのGMPのそれと同一基準ではないことである。
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