武田のがん治療薬「出荷停止」が映す大きな難題 安全な薬を安定的に供給するために必要なこと

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現代の医薬品の製造ならびに流通は、国内にとどまらず、世界中の国々が密接に関係する非常に複雑な事業となっている。当然のことであるが、医薬品は病気の患者の治療や予防などの保健衛生に用いられ、人々の健康や生命に直結することは世界共通だ。そのために、その医薬品の品質と安全性をしっかりと確保することが、世界の公衆衛生上の重要な課題となっている。

しかし、いくつかの医薬品の中には、各国の製造管理・品質管理基準があるにもかかわらず、それに準拠されていない状況下で製造されているものがある。その結果、低品質で粗悪な医薬品が、世界規模のサプライチェーンに入り込み、国内外の患者の治療に使用されてしまうという危機にさらされている。

そのような危機を回避するために、世界各国でその国独自の製造管理・品質管理基準を設けている。それがGMPである。

GMPのコンセプトを理解するのに手助けとなるものとして、「GMPの3原則」というものがある。「人為的な誤りを最小限にすること」「医薬品の汚染及び品質低下を防止すること」「高い品質を保証するシステムを設計すること」の3つだ。

ただ、このGMPについては、いまだ世界で共通・標準化されたものはなく、さらに、そのGMPが適切に実施されていることを保証するための規制メカニズムも不十分なままである。

エッセンシャルメディスンはリスク分散が必要

私見も交えるが今回の事案を通して、今後われわれが考えていかなくてはいけないことが3つある。

1つ目は、リスクの分散である。前述のとおり、今回問題となった薬剤であるリュープロレリンの日本国内の使用量シェアは、LH-RHa製剤全体の約70%を独占している。それにもかかわらず、武田薬品工業は山口県光工場のたった1つの工場で生産してきた。

医薬品の安定供給は、製薬企業の課せられた大きな社会的責務の1つである。これに対しては、武田薬品工業はすでにリュープロレリンの新たな新製造施設を大阪に建築中であり、2021年度の稼働予定とのことであり、多少の改善が期待できよう。

ただ、経営上のコストを最小限にしたい狙いがあっとしても、たった1つの工場が停止しただけで、国内の医療現場が混乱してしまうようでは、医薬品の安定供給を保持する体制としては、脆弱なシステムと言わざるをえない。

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