武田のがん治療薬「出荷停止」が映す大きな難題

安全な薬を安定的に供給するために必要なこと

世界の医薬品業界全体に通じる大きな難題も抱えている(写真:Tomohiro Ohsumi/Bloomberg)

医師から処方された水虫の薬を飲んだら、実はそれに睡眠薬が混入されていたという大事件が起きた。決して推理小説の中の話ではない。昨年、日本で起こった実話である。小林化工(福井県あわら市)が製造・販売する抗真菌薬「イトラコナゾール錠」に、睡眠導入薬のリルマザホン塩酸塩が混入していたのだ。

結果として、どんなことが起きたのか。睡眠導入剤を内服すると眠気が生じる。当然のことだ。だから、通常の内服のタイミングは就寝前である。しかし、患者は水虫の薬であると思って内服している。内服するタイミングは、多くは朝食後などの日中である。当然、内服後に車の運転をする患者もいるだろう。よって、その薬を内服した患者のうち22人が交通事故に巻き込まれた。最悪なことに、この薬により1人の死亡者が出てしまったという甚大な被害が生じたのである。

医薬品の製造・品質管理の重要な基準に違反

なぜこのような悲惨な事件が起こってしまったのか。その1つの大きな理由として、小林化工側の「GMP遵守違反」がある。GMPという言葉はあまり聞き慣れない言葉であろう。GMPとは、Good Manufacturing Practiceの略称だ。日本語にすると、医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準となるもので、医薬品の製造に携わる者が守るべき内容を定めたものである。

同じくGMP違反を発端とした突然の供給停止によって、国内の医療現場が大混乱に陥った医薬品がある。「リュープリン®」の名称で、武田薬品工業が製造・販売する医薬品である(一般名:リュープロレリン、以下リュープロレリンに統一して記す)。リュープロレリンは、乳がんや前立腺がん、子宮内膜症や子宮筋腫などのホルモン依存性疾患の治療に用いられる重要な薬剤である。

武田薬品工業が生産・販売するこの医薬品の国内使用量シェアは、LH-RHa製剤全体の約70%を独占している。

アメリカの規制当局であるアメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration、FDA)は、2019年10月18〜26日にリュープロレリンの製造工場である武田薬品工業光工場(山口県)に対して、アメリカ向け医薬品の製造所として査察を行った。

その際に、重⼤なGMP違反が観察された。その違反内容は、無菌製造(無菌製造の完全性試験の不備、Clean roomの管理不適)、Quality Unitの機能がGMPに適合していないということであった。

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