武田のがん治療薬「出荷停止」が映す大きな難題 安全な薬を安定的に供給するために必要なこと
本来、医薬品は当然無菌操作で製造・製品化されなくてはいけない。そのために、製薬企業の行うGMPとしては、その無菌操作について、まずはそのプロセスをシミュレーションし、その過程において欠陥がないか十分検証することが必要である。
シミュレーションを重んじるのは、医薬品であるから人体で試験・検証することは困難だからだ。そのシミュレーションに問題がないことを確認できたならば、次はそれを手順書として文章化することが強く求められる。なぜなら、GMPの基本コンセプトは、だれが、いつ作業しても、必ず同じ品質でかつ高品質な医薬品を作ることができることだからだ。武田薬品工業は、この適切な文書化された手順の確立および遵守を怠ったのである。
この重大なGMP違反に関して、武田薬品工業の提示した改善計画が不⼗分であったため、FDAは2020年6月9日に警告書を発出した。警告書(Warning Letterという)が、FDAのウェブサイトに掲載されることの社会的意味は大きい。国民に周知することだけではなく、その製薬企業に社会的な制裁を加えることになるからだ。その結果として、その製薬企業の社会的信用は地に落ち、場合によっては、株価が下がり、収益が落ちることになる。Warning Letterの発出とは、それくらい重いペナルティーなのだ。
前立腺がんや乳がん患者の治療が中断
そのためなのか、武田薬品工業が生産するリュープロレリンは2020年6月に一時的に生産中止となった。武田薬品工業の製造停止を受けて、そのほかのリュープロレリンならびにその類似薬(同効能・効果)の製造・販売をする国内3社(あすか製薬、ニプロ、アストラゼネカ)は、自社製品について、すでに自社製品を使用していた患者への供給を優先した。
結果として、武田薬品工業が製造・販売していたリュープロレリンを使用していた国内の患者は、リュープロレリンを使用することができなくなってしまったのである。これは、前立腺がんや乳がん患者が治療を中断しなくてはならないということである。がん患者にとっては、まさに命に関わる大問題だ。
さらに、リュープロレリンは、国内のみならず海外にも多く輸出されている。 2019年度の武田薬品工業の財務報告によれば、リュープロレリンの総売上高は累計1090億円である。その国別内訳でみると、日本は407億円(約37%)、アメリカでも222億円(20%)と大きなシェアを占めている。
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