武田のがん治療薬「出荷停止」が映す大きな難題 安全な薬を安定的に供給するために必要なこと

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一方で、日本もアメリカもPIC/Sの加盟国である。つまり、PIC/Sそのものが、本来の目的を達成できておらず、十分な働きをしていない可能性があるということもわかった。

そのような状況を背景に、現在の世界の流れは、医薬品製造設備の査察に関する相互承認協定(MRA)を進める方向性で動いている。つまり、この協定により、当局は相手国のGMP査察結果を受け入れ、査察報告書を共有し、輸入製品の検査を免除することができるということである。

それにより、検査の重複を最小限に抑え、GMP査察の対象範囲を拡大し、製造業者のコストを削減することで、医薬品の貿易を促進するための協定だ。しかも、これは法的効力を有する。日本は2018年にEUと日欧MRAを締結した。しかし、2021年2月現在、日本とアメリカとの間でMRAは締結されていない。

世界的なシステムの構築を

3つ目に考えたいことは、各国間のGMP基準に基づいた査察により齟齬が生じた場合に、それを解決する機能を有する世界的なシステムを構築することである。前述のようにPIC/Sの最終的な目標は、医薬品のGMPを管理するための厳格なガイドラインの策定と実施、そしてそのガイドラインを監督・監視する独立した機関やシステムの確立である。

しかし、今回のようにPIC/S加盟国間で、GMP査察結果の乖離・紛争が生じた場合に、それを解決・仲裁する権限まではPIC/Sは有していない。どのような形であれ、医薬品の製造・販売はますますグローバル化し、複雑化していく中では、そのシステム作りは必須であろう。

今回のリュープロレリン出荷停止問題から、グローバルな医薬品の製造・流通に関するいくつかの問題点を抽出することができた。それに対する今後の対応策についての議論が早急に必要だ。なぜなら、その医薬品の使用先に、患者の命がかかっているからである。

(取材協力:斧原邦仁)

【2021年3月4日17時18分追記】初出時、リュープロレリンならびにその類似薬に関わる記述と取材協力者の名前に誤りがありましたので修正しました。

和田 真弘 佐野厚生総合病院乳腺外科 乳腺外科医

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わだ まさひろ / Masahiro Wada

1972年、栃木県佐野市生まれ。1999年、新潟大学医学部医学科卒業。専門は乳がん。日本乳癌学会乳腺専門医・指導医。現在は,故郷の栃木県佐野市内の病院に勤務。乳がん診療のみならず、市民への乳がん検診への啓蒙活動、市内小中学校でのがん教育などの活動も行っている。

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