天才たちが発した「生きる希望が湧く」7名言 化けるかどうかは「実力4割、運4割、努力2割」

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5.今東光(僧侶・作家・政治家)
『正しい人生』とか『何とかの人生』なんてものはないよ。本人にとっての人生しかないんでね。自分にとっての人生しかないんだ。

明治生まれの気骨の人である。僧侶、直木賞作家、参議院議員──。今東光は型破りで、毒舌で、マルチな活躍をした。今東光の毒舌は本質をズバリとついて思わず唸ってしまう。人生、いかに生きるべきかと問われれば、「人生はな、冥土までの暇つぶしや。だから、上等の暇つぶしをせにゃあかんのだ」。こんな言い方をする。「冥土までの暇つぶし」と人生を喝破し、その上で暇つぶしは上等でなくてはいけないとする。評判を気にし、汲々として生きる私たちに「嫌われて生きる方がいい」という一言をもってさとす。逆説の励まし──これが「毒舌和尚」のやさしさなのだ。

だが、今東光の言葉に合点しながらも、割り切って生きるのは難しい。人生に迷いはつきもので、迷えば袋小路に陥って身動きができなくなる。今東光は、迷いの元凶は人生に正解を求める心にあるとする。だから「正しい人生なんてものはない」と一刀両断にし、「結局、生まれて、生きて、ただ死ぬだけのことではないか。どう生きるかは、それぞれの計らいでいいではないか」と言ってのける。

計らいとは判断や意思、意味づけのことで、死ぬまでの人生、思うさま生きたらいい──そう言っているのだ。「空々寂々たる人生なんて、糞食らえ、と思うべし」。今東光の毒舌は熱く、私たちの心に響く。

6.勝新太郎(俳優)
痛み、失敗というのは大切なんだよ。人間は自分が痛い思いを経験するから、人の痛みも分かる。情を知る訳だ。情を知ると、自分が不幸になっても人には幸せになって欲しいと思うようになれる。少しぐらい自分が不幸になってもいいという考え方が出来るようになる。

勝新太郎の金銭感覚は壊れているのではないか。そう思ったことがある。某県某ホテルから知人を介して勝新太郎ショーの打診があり、私が橋渡しをしたときのことだ。

『リーダーとは「言葉」である』(青春出版社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

勝プロは1981年、当時のお金で12億円の負債をかかえて倒産。“火の車”だった。依頼されて前金の交渉もした。ところが、長唄二代目・杵屋勝丸でもある勝は、自分のギャラが少なくなるのを承知で、三味線など大所帯を引き連れて乗り込んだのである。「ショーの質を落としたくない」──勝は譲らなかったという。利益が出なかったと勝の事務所関係者はこぼした。プロ根性は見上げたものとしても、勝の我が儘に私はあきれた。

ところが後年、「自分が痛い思いを経験するから、人の痛みも分かる」(『偶然完全 勝新太郎伝』田崎健太/講談社+α文庫)という掲載の言葉で考えが変わる。勝は、仕事に困っていた出演者たちに手を差しのべたのではなかったか。「人に幸せになって欲しい」「少しくらい自分が不幸になってもいい」──豪放磊落に見える勝の、人情に篤い素顔を垣間見た思いだった。

1990年、旧ホノルル国際空港。違法ドラッグ所持容疑で勝は逮捕される。勝手にパンツの中に入っていたと大マジメに供述。検察は激怒し、世間は喝采した。勝新はきれいごとの一切を言わず、死ぬまで「勝新」を貫いてみせたのだ

「人は化けるのです」

7.中邨秀雄(吉本興業元会長)
卵の時に見て、これはいける、これは駄目だというのはわからない。人は化けるのです。

中邨は吉本興業「中興の祖」である。課長時代、劇場中心の経営からテレビ出演へ戦略展開。社長就任後は東京進出を成功させ、総合エンターテインメント企業へと導く。関西学院大学時代はラグビー部で活躍。当時、弱小プロに過ぎなかった吉本興業で、ただひとりの大卒社員だった。

吉本興業には現在、総勢6000人以上のタレントが所属するが、それでも全国区タレントは一握りしかいない。どうやって「金の卵」を見抜くのか。中邨は自著に断言する。

「はっきり申します。卵の時に見て、これはいける、これは駄目だというのはわからない。人は化けるのです」(『吉本興業 使った分だけ人とお金は大きくなる!』三笠書房)。

人は化ける──これが“人材企業”を率いてきた中邨の持論なのである。

では、どうすれば人は化けるのか。3つの要素があると中邨は言う。実力4割、運4割、努力2割だ。実力と努力は自分の意志で何とかなる。運はどうか。運とは人との縁のことを言う。だから不遇に腐らず、笑顔で、明るく、誠実をもって接していれば必ず運が向いてくるぞ──そうさとすのがリーダーの愛情ということになる。

そして中邨は「人は化ける」に続けて「チャンスを与えられた時に化けたタレントが、金の卵」だと言う。化けるかどうかは部下次第であろうとも、チャンスを与えるのはリーダーの役目なのだ。

向谷 匡史 作家

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むかいだに たdaし / Tadashi Mukaidani

1950年、広島県呉市生まれ。作家・僧侶(浄土真宗本願寺派)。拓殖大学卒業後、週刊誌記者などを経て現職に。保護司、日本空手道「昇空館」館長の顔も持つ。アウトローの世界から政治家、仏教まで、幅広いジャンルで人間社会を鋭くとらえた観察眼と切れ味のよい語り口には定評がある

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