こんまり夫が「市長になる夢」諦め目指す高み 猛烈営業マンから妻のプロデューサーに転身

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そしてある日、結婚したいとまで考えていた彼女に振られた川原は、失意のどん底に沈みながら、ふと、「俺はなんのために都会に出てきたのか」と考えた。その瞬間、ハッとした。

「俺は市長になると宣言したじゃないか!」

大学に行かず、アルバイトを続けていても市長への道は拓けない。つらい恋を忘れるためにも、なにか新しいことを始めようと久々に大学に向かった川原は、学内の掲示板に貼られた「議員秘書インターン募集」という張り紙に目をとめた。

これだ!

すぐに電話をすると、「いついつに、議員会館に来るように」と指示された。その日、川原は初めて永田町に降り立った。茶色に染めた長髪をなびかせて。

「市長になる」という目標が消えた日

永田町ではまず目にすることのない風体の川原だったが、面接では自分なりの言葉で「いずれ市長になって、世の中を変えていきたい。だから、インターンとして勉強させてほしい」と伝えた。その話を聞いた議員は、こう言った。

「髪を切って染めてきたら、ここで働いていい」。

川原はその日のうちに髪を切り、黒く染め、議員秘書のインターンを始めた。

「今思えば、そもそも採用してくれたこと自体が奇跡ですよね。頭がいい感じの学生がたくさんいるなかで、僕みたいな風貌のやつを『面白い』と認めてくれた先生がいて、今がある。本当に感謝しかないです」

この議員のもとでおよそ1年半、インターンを務めた川原は、生涯忘れられない体験をする。2005年9月に行われた、第44回衆議院議員総選挙だ。この選挙は、「郵政民営化」を訴える小泉純一郎首相率いる自民党が圧勝し、「小泉劇場」と呼ばれた。

川原が働いていたのは、民主党議員の事務所。メディアが連日のように小泉首相を大きく取り上げるなかで、「メディアが民主党はダメだと報じると、前日まで仲良くしていた駄菓子屋のおばちゃんが、シャッターを閉める」ということが起こった。議員の能力、経験、それまでの関係性もすべて吹き飛ばすように、支持者が一斉に離れていく。そうして、自分を信頼してくれた議員は選挙で惨敗し、「ただの人」に戻る。

選挙が終わった後、川原の胸のなかで「市長になる」という目標は、潰れて消えた。

「選挙を経験したことで、市長になっても世の中をよくしたいという目標は達成できないと確信したんです。だって、市長としてどんなにいい仕事をしても、メディアの報道次第で今までの実績がすべてチャラになるような仕事だし、選挙で負けたら、無職になる。こんな不安定で危ない仕事をしちゃダメだと思いました」

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