TBS「天国と地獄」独り勝ちに抱く違和感の正体 入れ替わりは大人向けのドラマと言えるのか

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「転校生」から、さらにさかのぼると、入れ替わりのドラマで思い出されるのは、1973年の「へんしん!ポンポコ玉」(TBS系)。同作は主に小・中学生向けの特撮ファンタジーでした。これらを踏まえると、入れ替わりのドラマはもともと子ども向けであったことがわかるでしょう。

もともと入れ替わり、あるいはタイムスリップ、異星人が登場するようなファンタジー作は、ティーン向けのジュブナイル小説に多い設定であり、テレビでは特撮か、「少年ドラマシリーズ」(NHK)などで映像化されたジャンル。それだけに入れ替わりの物語は、長い歴史を持ち、大人向けの社会派ドラマの多い日曜劇場の作品としては幼い設定なのです。

では、なぜ幼い設定を用いたのか。まず連ドラは途中からの視聴が難しいため、「何とか第1話を見てもらわなければいけない」という切実な事情があります。また、年を追うごとに、第1話の入口が難解だったり、動きが少なかったりすると、すぐに視聴をやめてしまう人が増えました。ネットコンテンツなどエンタメの多様化によって、じっくり考える前に「見るか見ないか」の判断を下す人が多くなったことで、「入口はわかりやすく、大きく展開させる」ことが常套手段となっているのです。

最初から「何でもアリ」の申し開き

その点、「天国と地獄」で描かれる入れ替わりは、「善と悪」「男と女」「熱血刑事とサイコパス」というこれ以上ないほどわかりやすい真逆の設定。このような子どもでもわかる対比のさせ方を見ると、「今の視聴者はこれくらいわかりやすくしておかないと見ない」とあなどられているように思えてならないのです。

これは裏を返すと、かつての日曜劇場でよく見られた「心の機微を描いた人間ドラマや、リアリティーのある社会派ドラマでは見てもらえない」という判断によるものではないでしょうか。事実、ちょうど1年前に日曜劇場で放送された「テセウスの船」も、子どもでもわかるタイムスリップという設定を用いたことからも、同様の判断がうかがえます。

また、子どもでもわかる入れ替わりの対比は、瞬発的にネット上への書き込みに直結。実際、綾瀬さんと高橋さんの入れ替わった演技を見て「思わず書き込んだ」という人が続出していました。感情に訴えかけるより、視覚に刺激を与えることでネット上の反響を狙い、それを増やすことで「面白いドラマ」と印象付けているのです。

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