転職活動のリアル!
さて、学者の転職活動はどんなものか。やってみてわかったが、ずいぶんローテクな方法だ。まずは興味のある大学にとにかくメールをする。学者の世界は狭くて、就職先になりそうな大学には大抵1人や2人は知り合いがいるので、彼らに連絡を取る。同時に、大学院のときの指導教官や友達に、空きポジションがどこかにないかと問い合わせる。
もちろん、空きポジションがない大学もたくさんあるが、大学によっては気に入ってくれれば、新たにポジションを作ってくれることもある。というか、就職活動中の学者がつねに一定数いるので、雇用する側もそれを前提にフレキシブルな対応をするわけだ。
ともかく、興味を持ってもらえた場合にはセミナー(研究発表)に呼んでもらう。
そこで双方が気に入れば仕事のオファーをもらえる。
オファーを出すためには 教官会議で承認されなければならないので(ほかの大学をちゃんと調べたわけではないが、大体、同じようなやり方だと思われる)、この段階で話が流れてしまうこともよくある。
オファーをもらってからが本当の勝負?
さて、オファーが出ても、そこで就職活動が終わるわけではない。その後には条件を詰める交渉が待っている。日本の大学ではそれほどないようだが、アメリカの場合には、ここでの交渉次第で、雇用条件がかなり変わってくるのだ。
交渉できる項目はいろいろある、というか、特に決まった制限はないみたいだ。交渉の典型的な項目はテニュア付きかどうか、職階(教授なのか准教授なのか)、年俸、研究費、福利厚生(住居の補助など)、担当授業の数など。
報酬についても、大学によるが、かなりフレキシブルかつアグレッシブだ。幸運にも僕がオファーをいただいたある大学では、当時僕がもらっていた年俸の2倍近くを提示してきたうえに、最初は年間3コマだった授業数を、交渉後、2コマに変えてくれたりした。ちょっと前には、マンハッタンの一等地のアパートを所有していたニューヨークのある大学が、それを使って大物をガンガン引っ張ってきたりしていた。
程度の差はあるものの、大ざっぱに言うと日本やヨーロッパではこういった交渉の余地はあまりないらしい。 聞きかじったところ、日本の場合、少なくとも国公立の大学の報酬は公務員に準じていて、ほとんど変更することができないらしい。ヨーロッパでも一部の例外を除くと似たような制度だそうだ。
正直に言うと、僕は交渉事がとても苦手なので、こういった交渉をしなくて済むなら、そのほうが楽だと思っている。その点では、条件交渉にまつわる「面倒事」のあまりない日本の制度は少しうらやましい。
ただ、こういうフレキシビリティがあるおかげで、大学はいい研究者や教員を集めることができるし、学者のほうも 自分を「高く売れる」ように仕事をキッチリやっている面があるというのも事実だろう。軽々しく比較することはできないが、アメリカの大学がこの業界で強い理由のひとつになっているのではないかと思う。
(「軽々しく比較はできない」と書いたけれど、これは本当にそうだ。少なくとも日本の国公立大学には、報酬を動かすのがほとんど禁じられているという事情があるようだし、そもそも教員への報酬に使われているお金の量にも大きな差があるようだ。アメリカのような交渉を取り入れたらそれだけで日本の大学が強くなる、というようなことを言うつもりはない)
さらに、もしも妻/夫が同じ大学で働く場合には、その待遇なども交渉項目に入ってくる。日本だと夫婦の待遇を一緒に交渉するというのは珍しいのではないかと思うが、これもさっき書いたようにアメリカならではの事情を反映しているのかもしれない。
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