学者が転職を考えるとき
編集の山本さんによれば、この連載はけっこういろんな層の人たちに読んでいただいているらしいが、中には、転職をこれまでに経験した人や、これから転職を考えている人もいらっしゃるのではないだろうか。
学者の場合にも、さまざまな理由で転職の機会がやってくる。たとえば、以前、書いたように『テニュアトラック制度』という制度があって、新卒(といっても大学院を卒業した後だが)の雇用は期間雇用だ。テニュアと呼ばれる無期雇用のポジションをもらえなかった場合、 新たな就職先を探さなければならない。
一度テニュアを取ると犯罪でも起こさない限り基本的には同じ大学にずっといることができるが、必ずしもみんながずっと同じ大学にいるわけではない。むしろ、アクティブに研究をしているかぎりは、何年かに一度くらいはどこかから声がかかるのが普通という感じのようだ。
わが校でも教員会議の主な議題のひとつは「次は誰をヘッドハンティングしようか」というもので、だいたいいつでも1人か2人くらいと交渉中という感じだ。
もちろん、学者のほうも向こうからお声がかかるのをただ待っているだけではなく、自ら積極的に職探しをすることも多い。テニュア審査のタイミングはそのひとつだが、ほかにもいろいろな理由で就職活動をする。業績を上げた学者が、最初の就職先と比べて、もっと「ランクの高い」大学を目指したり、条件のよいポジションを探したり。
家庭の事情で転職を考えるケース
妻/夫の仕事の都合や子供の学校など、家庭の事情で異動を希望することも多い(「妻/夫」と書いたけれども、同性同士のパートナーなどいろいろな形態がありうる。われわれは普通ニュートラルなspouse(伴侶)という言葉を使っているが、日本語だとちょっとこなれていない感じがしたのでこのエッセイではあえて「妻/夫」と書くことにする)。アメリカではこの比重がとても大きいような気がする。これには少なくとも3つ理由があるようだ。
まず、学者同士のカップルが圧倒的に多い。あるアンケートによれば、アメリカの学者の3分の1くらいは夫婦両方とも学者というようなことになっているらしい。
次に、アメリカは地理的に巨大な国で、しかも大抵の大学はものすごい田舎にあるので、満足のいく仕事を、家族みんなが近くで見つけるのはかなり難しい。
それに、アメリカは(少なくとも経済学の研究者について言えば)外国出身者の比率が非常に高く、彼らにとっては、同じアメリカでも住みやすい場所とそうでないところの差がずいぶんある。
僕の場合も、詳しくは書かないが家庭の事情でちょっと異動したほうがいいかも、ということになったのだ。アメリカやヨーロッパを中心にあちこちにメールをした。といっても今の職場も気に入っているので、スタンフォードとも残留の交渉をしつつ。
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